ガリア聖歌
メロヴィング朝・カロリング朝以前のガリア(現フランス)で歌われた西方ラテン聖歌の地域伝統。
どんな音か
西方ラテン聖歌の中でも、メロヴィング朝・初期カロリング朝の地域的バリエーション。グレゴリオ聖歌と比べると、より装飾的で、音の跳躍が大きく、より『歌唱的』である。単旋律無伴奏で、歌詞(ラテン語)の子音・母音がはっきりと発音される。テンポは遅く、句読の終わりで呼吸が入る。ネウマ記譜法により、装飾音が指示されるが、解読の困難さがあり、演奏者の解釈に依る部分が大きい。音域は限定的だが、その中での微妙なニュアンス変化が重要。
生まれた背景
聴きどころ
グレゴリオ聖歌より装飾的な音の動き、より感情的なアクセント。句読ごとの『呼吸感』が、現代の演奏では顕著に表現される。Schola Hungaricaの録音では、複数の歌い手による群唱により、ハーモニック・リッチネスが生まれ、中世聖歌の『立体感』が復元される。
発展
ピピン3世とカール大帝はフランク王国の統合のためローマ典礼を採用し、754年以降ガリア聖歌は段階的に置換された。一部の旋律はカロリング朝聖歌(後にグレゴリオ聖歌と総称される伝統)に取り込まれ、Improperia(聖金曜日交誦)などの曲種に痕跡を残す。20世紀の写本研究によって失われた聖歌の輪郭が再構築されつつある。
出来事
- 754: ピピン3世、ローマ典礼採用を進める
- 789: カール大帝『Admonitio generalis』、典礼統一を命令
- 9世紀: ガリア要素を取り込んだフランク=ローマ聖歌が西方標準となる
派生・影響
カロリング朝で生まれた『グレゴリオ聖歌』はローマ系とガリア系が融合した産物であり、西方ラテン音楽全体の出発点となった。
音楽的特徴
楽器男声斉唱(無伴奏)
リズム自由リズム、東方的装飾と詩篇朗誦
代表アーティスト
- Schola Hungarica
- Ensemble Organum
- Anonymous 4
代表曲
Gallican Mass for Saint Hilary — Schola Hungarica
日本との関係
初めて聴くなら
Schola Hungaricaによる『Gallican Mass for Saint Hilary』。4世紀の聖者ヒラリウスのための典礼曲。録音のクオリティは現代的で、古い音響を現代的技術で再現している。夕方の静かな時間、または瞑想時に聴くことを推奨。
豆知識
ガリア聖歌の消滅は、歴史的には『進歩』(ローマ標準化)と見なされてきたが、音楽的には多様性の喪失である。20世紀の『歴史的演奏実践』(ピリオド・パフォーマンス)ムーブメントにより、初めて復元の試みが始まった。ただし、正確な復元は不可能であり、現在の演奏は『推定と解釈』の産物。
