アングリカン詠唱
イングランド国教会で発達した、英語詩篇を四声体ハーモニーで歌う独特の朗唱様式。
どんな音か
詩篇のテキストを4声部(ソプラノ・アルト・テノール・バス)のハーモニーに乗せて歌う。旋律の骨格は決まっているが、詩篇の各節は音節数が一定でないため、何音節分かを1つの音に「溜め込んで」一気に動く「詠唱音」(reiting tone)が使われる。この部分は音程が変わらず声がまとまって前に進み、フレーズの後半でハーモニーが和音進行として動く。合唱として聴くと、溜まった後に解放されるような動きが交互にやってくる。テンポは説明的でなく、呼吸とテキストの読みに沿って自然に動く。パイプオルガンが薄く支えることが多い。
生まれた背景
聴きどころ
一つの詩篇節が始まる冒頭の「溜め」と、後半のハーモニー進行への移行点に耳を向ける。4声部がどう動くかよりも、まずバスの音がどこで変わるかを追うと、和声の骨格が見えてくる。King's College Cambridgeの合唱は録音の質も高く、各声部の分離がはっきり聴ける。大聖堂の残響の中で歌われた録音は、音が壁に反射して次の音が来る前に前の音がまだ漂っている感覚が独特だ。
発展
17-18世紀にトマス・モーリー、ウィリアム・クロフトらが古典的チャント型を整備、19世紀ロバート・ジャネス、サミュエル・ウェスリーらの作曲で和声的洗練が進んだ。20世紀には英国大聖堂聖歌隊伝統(キングズ・カレッジ、ウィンチェスター等)の世界的録音活動で広く知られるようになった。米国聖公会・カナダ聖公会・日本聖公会など世界中の聖公会共同体で実践される。
出来事
- 1549: 共通祈祷書初版発行
- 1644: ピューリタン革命下で大聖堂聖歌が一時禁止
- 1841: ロバート・ジャネス、現代型詩篇集刊行
- 1928: 米国聖公会改訂祈祷書
派生・影響
現代英語讃美歌・合唱詩篇曲・チョラル・イーヴンソング作品の母胎となり、英国合唱伝統全体の音響的基盤を築いた。
音楽的特徴
楽器聖歌隊(SATB)、オルガン
リズム英語詩篇の柔軟な朗唱、四声和声、固定チャント型
代表アーティスト
- Choir of King's College, Cambridge
- Thomas Tallis
代表曲
- If Ye Love Me — Thomas Tallis (1565)
- Spem in Alium — Thomas Tallis (1570)
Magnificat (Anglican Chant) — Choir of King's College, Cambridge
日本との関係
初めて聴くなら
Choir of King's College, CambridgeによるMagnificat(アングリカン詠唱版)から入るのが最も典型的なスタイルを聴ける。タリスの「If Ye Love Me」(1565年)は4声部の絡み合いが短い曲の中に凝縮されており、アングリカン様式の声楽書法の出発点として聴きやすい。「Spem in Alium」(1570年)は40声部という特殊な編成で、詠唱というより多声部合唱の極点として別の文脈で聴ける。
