ジャズ
エチオジャズ
Ethio-jazz
アディスアベバ / エチオピア / 東アフリカ · 1969年〜
1960年代のエチオピアで成立した、エチオピア音階とJazz・Funkを融合させた音楽。
どんな音か
エチオジャズは、エチオピア固有の5音音階(ペンタトニックだが西洋のものと異なる色合いを持つ)とジャズ・ファンクの編成が噛み合わさった音楽だ。ヴィブラフォン、オルガン、サックス、トランペットがエチオピアの旋律を演奏し、ラテン系のパーカッションとコンガがリズムを支える。Mulatu Astatkeのアレンジはモーダル・ジャズ(マイルス・デイヴィス的な音階中心の即興)とアフリカのグルーヴを合わせた独自の構造で、音はメランコリックでありながら反復に身体が引き込まれる感覚がある。「テゼタ(郷愁)」という感情概念がこの音楽の核にあり、懐かしさと切なさが同居する音色がその言葉を体現している。Hailu Mergiaのコードオルガンはより土着の感覚が強く、エレクトリックな温度感が独特だ。
生まれた背景
1960年代のアディスアベバは、ハイレ・セラシエ皇帝の近代化政策のもとで欧米の文化が大量に流入した時代だった。アメリカ合衆国のジャズ、キューバ音楽、アフロビートがエチオピアのラジオとナイトクラブに届き、土地の音楽家たちがそれをエチオピア語と音階で再解釈した。Mulatu Astatkeはボストンのバークリー音楽院、ニューヨーク、ロンドンで学んだ後にアディスアベバに戻り、1969〜72年に核心的なレコーディングを集中して行った。その録音群は後にフランスの「エチオピクス」コンピレーション・シリーズ(1997年〜)で世界に紹介され、日本でも音楽マニアの間で話題になった。
聴きどころ
Mulatu Astatkeの『Yègellé Tezeta』(1969年)では最初のヴィブラフォンのラインから、西洋ジャズとは「ずれた」音階の質感がある。西洋の短調と似ているが、半音と微分音のポジションが違う。コンガのリズムがジャズのスウィング感よりもアフリカ的な切れ方をする瞬間も聴き取れる。Hailu Mergiaの『Tche Belew』(1977年)はよりダンサブルで、オルガンのグルーヴが終始変わらずに反復される心地よさがある。
音楽的特徴
楽器サックス、キーボード、ベース、ドラム、エチオピア伝統楽器
代表アーティスト
- Mulatu Astatkeエチオピア · 1965年〜
- Girma Bèyènèエチオピア · 1969年〜
- Hailu Mergiaエチオピア · 1970年〜
代表曲
Set Alamenem — Girma Bèyènè (1969)
Yègellé Tezeta — Mulatu Astatke (1969)
Mulatu — Mulatu Astatke (1972)
Tezeta (Nostalgia) — Mulatu Astatke (1972)
Tche Belew — Hailu Mergia (1977)
日本との関係
2000年代にWorldDiscオーナーの評価やインディーポップシーンでのエチオピクス再評価の波が日本にも届き、レコード愛好家や音楽マニアの間で「隠れた宝」として語られるようになった。Mulatu Astatkeは2010年代に日本のフェスに出演した実績もあり、少数だが熱心なファンが存在する。
初めて聴くなら
Mulatu Astatkeの『Yègellé Tezeta』(1969年)が最初の一曲として最適。ヴィブラフォンの旋律が耳に引っかかるので、初めて聴く人でも「次のフレーズ」を待つ感覚が生まれる。続けて『Tche Belew』(Hailu Mergia、1977年)を聴くと、同じ時代の別のスタイルが見えてくる。夜の時間、照明を落とした場所での視聴に向いている。
豆知識
「エチオピクス」シリーズはフランスのレーベルBuda Musiqueが1997年から刊行した25巻以上にのぼるCDシリーズで、1960〜70年代のエチオピア音楽を発掘・復刻した。このシリーズがなければ多くの録音は忘れ去られていた可能性が高い。Mulatu AstatkeはイギリスのバンドHey Colossus、ジャズグループBroken Beatとのコラボ作品もあり、欧州の実験音楽シーンとも接続している。
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