ポップ

アムハラ・ポップ

Amharic Pop

エチオピア / サブサハラ・アフリカ · 1970年〜

エチオピアのアムハラ語ポップ。独特のペンタトニック「qenet(ケネット)」スケールが他のアフリカンポップと一線を画す。Teddy Afroが旗手。

どんな音か

エチオピアのアムハラ語で歌われるポップで、最大の特徴は「qenet(ቅኝት)」と呼ばれるペンタトニック(五音音階)の使用。tezeta、bati、ambassel、anchihoyeの四つの音階が骨格になり、西洋の長調・短調とは異なる「どこか懐かしく、少し愁いを帯びた」響きを生む。リズムはシャッフル気味の3連系か、軽くスキップする4ビート。マシンコ(一弦の擦弦楽器)やワシント(縦笛)が入ることもあるが、現代ポップではシンセ、ホーン、エレキギターが中心。歌は喉を強く震わせるメリスマ(こぶし)が多用される。

生まれた背景

1960〜70年代、ハイレ・セラシエ皇帝の宮廷楽団から派生したミュージシャンたちが、ジャズ・ファンクとアムハラ伝統音楽を融合させた「エチオジャズ」「Ethio-groove」の時代が下敷きにある。Mulatu Astatkeのインスト、Mahmoud AhmedやAlemayehu Eshete、Aster Awekeのヴォーカル作品が、後に欧州のコンピシリーズ『Éthiopiques』で世界に紹介された。1991年の社会主義政権崩壊後、ディアスポラ(米ワシントンDC、欧州)を拠点に現代化が進み、2000年代以降はTeddy Afroらがスタジアム級のスター文化を確立した。

聴きどころ

聴きどころはまずqenetスケールの「異質さ」。最初は調子っぱずれにすら聞こえるかもしれないが、繰り返し聴くうちにそのスケール特有の浮遊感が癖になる。歌唱面では、母音を細かく揺らすメリスマと、語尾を絞り出すような独特の喉の使い方に注目。ホーンセクションが鋭く差し込むタイミング、3連のスウィングするドラム、コーラスが束になってサビで応える掛け合いの構造(「ノンタゲブ」と呼ばれる定型)も聴き取りやすい要素。

代表アーティスト

  • Aster Awekeエチオピア · 1979年〜
  • Teddy Afroエチオピア · 2001年〜
  • Rophnanエチオピア · 2018年〜

代表曲

日本との関係

日本ではJim O'RourkeやMulatu Astatke再評価の文脈で、レコード掘り層に『Éthiopiques』シリーズが浸透した経緯がある。新宿や下北沢の中古レコード店で同シリーズを見かけることは多い。映画『ブロークン・フラワーズ』(ジム・ジャームッシュ、サントラ全編がMulatu Astatke)で初めて耳にした日本人も少なくない。Teddy AfroクラスのアムハラPopそのものは大流行とまでは行っていないが、東京のアフロビーツ系イベントで時折プレイされる。

初めて聴くなら

古典に触れたいならMahmoud Ahmedの『Ere Mela Mela』が一曲目に最適。ペンタトニックの浮遊感とエチオピアン・グルーヴの粘りが一発で伝わる。現代寄りで聴きやすいのはTeddy Afroの『Tikur Sew』、もう一つEyob Mekonnenの『Yamral』はR&B的な甘さがあり日本人にも入りやすい。夜、部屋を薄暗くしてコーヒー(エチオピア産が望ましい)を淹れながら聴くのが、文字通り似合う。

豆知識

『Éthiopiques』はフランスのレーベルBuda Musiqueが1997年から続けているコンピシリーズで、現在30巻以上。エチオピアにはユリウス暦に近い独自暦があり、現在も西暦より約7〜8年遅れた年を使用している。アムハラ文字(フィデル)は子音と母音を一文字で表す音節文字で、街中の看板も独自の幾何学的な雰囲気を持つ。ジム・ジャームッシュは『ブロークン・フラワーズ』のサントラをほぼMulatu Astatke一色で構成し、日本でのエチオピア音楽再発見の隠れた導火線になった。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1960年代1970年代アムハラ・ポップアムハラ・ポップレゲエレゲエエチオジャズエチオジャズ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
アムハラ・ポップを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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