ブラックメタル
1980年代末〜90年代の北欧で発展した、ローファイで攻撃的・反宗教的なメタル。
どんな音か
この音楽は「速さ」と「壁」でできている。テンポは1分間に180〜300拍(BPM)——ロックの常識をはるかに超える速さで突き進む。歪んだエレキギターは個々のリフを刻むのではなく、同じ音を超高速で連打して、途切れない音の壁をつくる(トレモロ・ピッキング)。ドラムはバスドラムとスネアを目まぐるしい速さで叩き続け(ブラスト・ビート)、その壁を埋め尽くす。ヴォーカルは、絞り出すような高音の絶叫(シュリーク)を主体に、低くうなる声(グロウル)を織り交ぜる。歌詞は反キリスト教、北欧神話、自然崇拝、虚無、死への希求などを扱う。音質はあえて荒く作る——ノイズだらけの80〜90年代テープ録音の質感を、現代の機材でも意図的に再現する。そして白塗りに黒い隈取りを施したコープス・ペイントが、この音の儀式に顔を与える。
生まれた背景
第1波は1980年代。イギリスVenomは1982年のアルバム名でこのジャンルを命名し、スウェーデンのBathoryがその原型となる音響をつくった。先駆はほかにもいるが(スイスのCeltic FrostやデンマークのMercyful Fateなど)、ジャンルの方向性を決定づけた第2波はノルウェー勢だ。1991〜93年のMayhem、Burzum、Darkthrone、Emperor、Immortalらが、より過激で、思想性をいっそう強く打ち出したジャンル像を確立した。彼らを世界的な事件として知らしめたのは、現実に起きた暴力だった。まず1991年、Mayhemのヴォーカリスト「Dead」が自殺。1992〜96年には教会への放火・放火未遂が相次ぎ(このうちブラックメタルの関係者の関与が裁判などで確認されたのは十数件ほど)、1993年にはヴァルグ・ヴィーケネス(Burzum)が同じMayhemのギタリスト「Euronymous」を殺害した。これらが世界中で報じられ、音楽の枠を越えてジャンルの名を広めた。2000年代以降の第3波では、アメリカ合衆国のWolves in the Throne Room、Liturgyらが、暴力の記憶から離れ自然や瞑想を主題にした「ポスト・ブラックメタル」へとジャンルを押し広げていった。
聴きどころ
まず耳を奪われるのは、トレモロ・ピッキングが作る壁のような音響密度だろう。ブラスト・ビートが連続する中で、キックとスネアの音色が次第に分離して聞こえてくる感覚も聴きどころだ。ヴォーカルが言葉を捨て、純粋な「叫び」になる瞬間がある。そして、ローファイな轟音のなかに、静かなアコースティックギターやキーボードの間奏がふと差し込まれる——この対比も面白い。
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- Mayhem
- Darkthrone
- Burzum
- Emperor
代表曲
- A Blaze in the Northern Sky — Darkthrone (1992)
- De Mysteriis Dom Sathanas — Mayhem (1994)
- Freezing Moon — Mayhem (1994)
- Transilvanian Hunger — Darkthrone (1994)
- Dunkelheit — Burzum (1996)
日本との関係
初めて聴くなら
豆知識
ヴァルグ・ヴィーケネス(Burzum)はEuronymous(Mayhem)殺害(1993)と複数の教会放火で、ノルウェーの法定最高刑である禁固21年を受け、2009年に仮釈放。その後はフランスを拠点に音楽活動を続けた。一連の事件の象徴が、1992年6月に焼けたファンタフト・スターヴ教会だ(ただし、このファンタフトの放火そのものでは誰も有罪となっておらず、ヴィーケネスは別の3件の教会放火で有罪となっている)。焼かれた象徴は、いまや忠実に再建されて同じ場所に立っている——12世紀に建てられ、1883年にベルゲン近郊の現在地へ移築された木造教会で、焼失後の1997年にほぼ当時のまま復元された。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- エレクトロニックトロピカル・ハウス
