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西欧

スイスのヒットチャートを開くと、自国の曲はほとんど見当たらない。公用語が独・仏・伊の3つに分かれた人口約900万の小国では、音楽の多くを国外から輸入するしかないからだ(正確には第4の国語ロマンシュもあるが、話す人が少なく音楽の売れ行きにはほとんど響かない)。シングルチャートで自国アーティストが占める割合は、おおむね1〜2割にとどまる。ドイツ語圏(ドイツ・オーストリア・スイス)の中でも、スイスはとりわけ英米の音楽が深く根を張った市場だ。

そんな中で自国勢の中心にいるのが、スイス・ドイツ語の方言で歌うラップ、いわゆるムンダルト・ラップ(Mundart-rap)だ。その代表格が、ヴェッツィコン出身のEAZ(本名アーバー・ラマ)。地元の方言そのままでメロディアスに歌うスタイルで、英米勢が占有する自国チャートに割って入れる数少ないラッパーの一人だ。一方、フランス語圏(ロマンディ)はフランス本国の動向をほぼなぞり、イタリア語圏(ティチーノ)はイタリア本国へ寄り添う。3つの言語ブロックは、それぞれ別の本国を見て、隣を見ない。

忘れてはならないのが、2024年のユーロビジョンで優勝したNemoの存在だ。キャリア初期はスイス・ドイツ語でラップしていたが、その後英語ポップへ転向。優勝曲「The Code」も、いくつものジャンルを混ぜ合わせた英語のポップで、ムンダルト・ラップではない。それでも、言語の壁を越えてZ世代に届く稀有なスイス産スターとして、いまや国民的シンボルになっている。

自国アーティストの人気曲

海外アーティストの人気曲

世代・地域・経済による違い

同じスイスでも、誰が何を聴くかは言語・世代・性別できれいに割れる。Z世代では、ムンダルト・ラップは男性に、国際的なポップスは女性に偏る傾向がある。フランス語圏(ジュネーブ、ローザンヌ)はフランス本国とほぼ同じ曲を聴き――ジュネーブで流れている曲は、ほぼそのままリヨンで流れている曲だ――イタリア語圏(ティチーノ州)はイタリア本国の音楽に親しむ。中高年層が手放さないのは、ドイツ語圏の大衆歌謡シュラーガーシュラーガー)と、耳なじみのよい国際ポップスだ。シュラーガーは甘く感傷的なメロディが身上で、世代を問わず結婚式や葬儀、テレビ番組に根を張っている。

参考資料

- Schweizer Hitparade: https://hitparade.ch/charts/singles