WorldMusic

ヒップホップ・R&B

バングラ・ヒップホップ

Bangla Hip-Hop

ダッカ / チッタゴン / バングラデシュ / 南アジア · 2005年〜

別名: Bangladeshi hip hop / Dhaka rap / বাংলা হিপ হপ

2010年代中盤のダッカで爆発した、ベンガル語ラップ。Rana Mrittika・Skib Khan・Tabib Mahmud らが牽引。

どんな音か

バングラ・ヒップホップは、ベンガル語(Dhakaiya・チッタゴン方言を含む)でラップする、2010年代中盤以降のバングラデシュヒップホップだ。US サウス系トラップ(重い808キック+16分ハイハット)、クラウドラップ、時に UKドリル をベースにしたビートに、ダッカ下町の口語で書かれたリリックが乗る。フロウはインドのデリー/ムンバイ系ラップ(Divine、Naezy)より語尾のトーンを大きく揺らす傾向があり、これはベンガル語の母音の伸びやすさによる特徴だ。歌詞はダッカ・スラム(Kalabagan、Rampura、Mohammadpur など)の生活、政治腐敗、若者の失業、恋愛の私的な細部などを扱い、US ラップやインド・ラップの直接翻訳ではない土着の語彙を持つ。

生まれた背景

起点は2010年代初頭の Dhaka University 周辺の学生ラップ・サークルと、Facebook グループ『バングラデシュ Rap Community』などのオンライン・コミュニティだ。決定的な瞬間は2014年前後で、Rana Mrittika(本名 Rana、ダッカ)が『Ghurte Jamu』をYouTubeに投稿してバイラル化し、これがバングラ・ラップの最初の全国的認知となった。以後 GullyBoy 名義でも活動、政治性の強い『Ei Amar Desh』(これが私の国だ)でZ世代の代弁者となった。続いて Skib Khan(チッタゴン系)、Tabib Mahmud(ラップ/ポップ両立、既存 slug)、Uncle SAM、そして Deshi MCs のコレクティヴが2015-2018年に層を作った。2018年のクオータ改革反対デモ以降、若者の政治的な鬱屈を代弁する媒体としてラップの地位が急上昇した。

聴きどころ

Rana Mrittika のフロウを聴いてほしい。彼はベンガル語の母音長を利用して、US ラッパーが英語の子音で強調するフレーズ末尾を、母音の伸ばしで代替する独特のスタイルを持っている。『Ei Amar Desh』の冒頭「Ei amar desh, ei amar bhasha」(これが私の国、これが私の言葉)の「desh」「bhasha」を母音で伸ばす瞬間が典型的。ビートは US Atlanta 系のトラップだが、時にタブラのループを808キックの下に潜り込ませる編曲が特徴だ。Tabib Mahmud の『Bondhu』はラップとポップの中間形で、Coke Studio Bangla 経由で主流化した新世代のバングラ・ラップの型を示している。

発展

2020年代に入って Coke Studio Bangla(2022年開始)が Warfaze や Nemesis と並んで Tabib Mahmud、Pritom Hasan らのラップ/ポップ融合曲を国民的番組で扱ったことで、バングラ・ヒップホップは地下から主流に押し上げられた。2023年前後には Kaam Bhang(コルカタのラッパー)と Rana Mrittika のクロスボーダー・コラボが増え、バングラデシュ/西ベンガルの言語共同体としてのシーンが再構成されている。TikTok と Facebook Reels が主要配信路で、Spotify 到達は他ジャンルより遅れている。

出来事

  • 2014: Rana Mrittika 初期 YouTube バイラル
  • 2018: クオータ改革運動、政治ラップ台頭
  • 2020: TikTok 経由の若手ラッパー拡散
  • 2022: Coke Studio Bangla 開始、ラッパーが主流番組へ

派生・影響

ヒップホップの地域的変種(regional_variant of hip-hop)。バングラ・ポップ、バウルの歌詞感覚を部分的に取り込む。

音楽的特徴

楽器トラップ・ドラム(808キック、スネア、16分ハイハット)、シンセ、時にタブラやバウル楽器のサンプル、ラップ・ボーカル

リズムUS サウス系トラップの60-90BPM、ハーフタイム、ベンガル語の母音長を利用したフロウ

代表アーティスト

  • Rana Mrittikaバングラデシュ · 2013年〜
  • Skib Khanバングラデシュ · 2015年〜

代表曲・現在

日本との関係

バングラ・ヒップホップ日本での認知はほぼゼロだ。日本ヒップホップ・シーンとの直接の交流は記録されておらず、Rana Mrittika や Skib Khan が日本公演を行った例もない。ただし2020年代前半、東京・上野公園で開催される バングラデシュ Festival(在日バングラデシュ人コミュニティ主催)でバングラ・ラップが小規模ながらパフォーマンスされる場が生まれた。

初めて聴くなら

最初は Rana Mrittika『Ei Amar Desh』(2018)、バングラ・ラップの政治性の起点。次に Skib Khan『バングラデシュi』(2019)、より US トラップ寄りのサウンド。Tabib Mahmud『Bondhu』(2021)はラップとポップの折衷で、Coke Studio Bangla 経由で最も広く聴かれた。夜、都市の夜景を見ながらイヤホンで聴くのが向いている。

豆知識

『Bangla』という語は現代バングラデシュのみを指すわけではなく、コルカタ(西ベンガル)を含むベンガル語圏全体を意味する。この意味でバングラ・ヒップホップは実質的にダッカ発とコルカタ発の両方を含む「ベンガル語ラップ」を指すことが多い。コルカタからは Cizzy、Kaam Bhang らが並走しており、2020年代前半にはダッカ/コルカタのクロスボーダー・コラボが増えている。Rana Mrittika は2020年に一時 YouTube アカウントを削除された(政府批判が理由と噂される)が、後に復帰した。

影響・派生で結ばれたジャンル

バングラ・ヒップホップを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

バングラ・ヒップホップ の系譜全体図(多段)を見る