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ヒップホップ・R&B

トルコラップ

Turkish Rap

イスタンブール / ベルリン / アンカラ / トルコ / ドイツ / 中東 · 1995年〜

別名: Türk rap / Türkçe rap / Turkish Hip-Hop

Ceza、Sagopa Kajmerが90年代末に地下で確立し、2017年以降Ezhelらのベルリン・ディアスポラで大衆化したトルコ語ラップ。

どんな音か

トルコラップは、トルコ語を主軸に、時にドイツ語や英語を混ぜてラップされるヒップホップの総体だ。初期の1990年代はケルン/フランクフルトのトルコ系移民二世(Gastarbeiter Nachkinder、いわゆるGebeなど)がドイツヒップホップの隣で始めた地下シーンが起点で、これが2000年代前半にイスタンブールへ逆輸入されて本国のシーンが生まれた。プロダクションは初期の90年代ブーンバップ(サンプル・ベース、90BPM)から2010年代のトラップ(60-80BPM、808キック+16分ハイハット)へ移行し、現在はUKドリルの三連ハイハットも吸収している。歌詞はトルコ語の音節構造(子音+母音のリズム)と豊富な子音を利用した押韻が特徴で、Cezaの『Holocaust』(2004)の1分間に80語を超える速度は世界のラップのなかでも極端な部類に入る。2017年以降のEzhelはアラベスクの半音階的歌唱(gargara=トリル)をトラップ・ビートに直接乗せる革新で、ラップと歌の境界を意図的に曖昧にした。

生まれた背景

起源はドイツで、1980年代末にケルンのIslamic Force(のちにKanak Attackと合流)が、ドイツ語+トルコ語のラップを地下で始めたのが最初期の記録だ。同時期のフランクフルトのCartel(1995年『Cartel』1st、10万枚以上を売った)がドイツ在住トルコ系ラッパーの集合体としてブレイクし、これがトルコ本国のCezaに直接影響を与えた。Cezaと姉のAyshe(彼女もラッパー)は1990年代後半に地下ミックステープを流通させ始め、2004年の『Rapstar』アルバム、同収録の『Holocaust』でトルコ語ラップの技術的到達点を示した。同時期にSagopa Kajmer(1978年 サムスン生、本名Yunus Özyavuz)がプロデューサー兼MCとしてより内省的な路線を切り拓き、2005年『Kalp Hastası』でシーンの二本柱を完成させた。

聴きどころ

Cezaの『Holocaust』を聴くとき、彼のフロウの音節密度に注意してほしい。1小節の16分割の各グリッドに、彼はトルコ語の子音を分散して配置し、母音を短縮することで英語ラップの1.5-2倍の情報量を詰め込む。これはトルコ語の音節構造(CV型が中心)が可能にした技術で、英語では物理的に不可能な速度だ。Ezhelの『Aya』(2017)は逆に、Aメロで低音の朗読に近いフロウを保ち、サビで突然アラベスクの装飾を効かせた「歌」に切り替わる。この切り替えがTurkish rap独特の快感で、Sezen Aksuを聴いて育ったリスナーの耳を掴んだ理由でもある。Sagopa Kajmerは対照的に、Wu-Tang系のダーティー・サンプルの上を、低いテンションで一定の速度で切り込む、地下シーンの職人的なスタイルを保った。

発展

2017年6月にEzhel(1985年 アンカラ生、本名Ömer Sercan İpekçioğlu)がシングル『Geceler』を発表、アラベスク歌唱をトラップ・ビートに直接乗せる手法がトルコ全土でストリーミング爆発を起こした。翌2018年、彼はマリファナ関連の歌詞で告発されて一時拘束、釈放後にベルリンへ移住した。同じ時期にBen Fero、Norm Ender、Anıl Piyancıらが続き、2019-20年にはUZI、Şehinşah、Contessina、Ceg、そしてUKドリル系の若手世代が本国とベルリンの両拠点でシーンを厚くしていく。2023年にはZ世代のガールグループmanifestが結成、Turkish trapの新章を開いた。

出来事

  • 1995: Islamic Force(ケルン)地下活動
  • 2004: Ceza『Rapstar』
  • 2005: Sagopa Kajmer『Kalp Hastası』
  • 2017: Ezhel『Geceler』ブレイク
  • 2018: Ezhel告発、ベルリン移住
  • 2023: manifest結成

派生・影響

ドイツのDeutschrap(特にKanakDil系のトルコ語混じり流派)と直接の親戚。Turkish popとは相互浸透関係(90年代ポップの歌手がラッパー客演を招く)。

音楽的特徴

楽器サンプリング、シンセ、トラップ・ドラム(808キック、16分ハイハット、時にUK Drill三連)、時にサズやカーヌンのサンプル、ラップ・ボーカル、時にオートチューン

リズム初期Boom Bapの90BPM、2010年代トラップの60-80BPMのハーフタイム、Cezaに顕著なダブル/トリプル・タイム

代表アーティスト

  • Cezaトルコ · 1997年〜
  • Sagopa Kajmerトルコ · 1997年〜
  • Anıl Piyancıトルコ · 2004年〜
  • Norm Enderトルコ · 2004年〜
  • Ben Feroトルコ · 2016年〜

代表曲・古典

代表曲・現在

日本との関係

日本語ラップとTurkish rapの直接接続はほぼないが、Ezhelがベルリンに拠点を移した2018-19年、Deutschrap経由で日本の一部のドイツ・ヒップホップ好きに認知された。KOHHのベルリン録音(2018-19)を扱った日本ヒップホップ・メディアが同時期のトルコ系ベルリン・シーンにも触れ、そこからEzhelに辿り着く小さな回路がある。日本トルコ料理店(新大久保、中野)ではTurkish rapよりTurkish popが優先されるため、日常の音風景としての浸透度は低い。ただし2020年代、Türk trap系の若手(UZI、Contessa、Şehinşah)はSpotifyの日本ヒップホップ・プレイリストにも間欠的に登場するようになった。

初めて聴くなら

最初はEzhel『Şehrimin Tadı』(2018)。アラベスク歌唱とトラップの融合が最も直接的に体感できる。次にCeza『Holocaust』(2004)、トルコ語の子音密度をフルに使った超高速フロウの教科書。Sagopa Kajmer『Kalp Hastası』(2005)は地下シーンの内省的な路線として対照的。Ben Fero『Sushi』(2018)はTikTok世代の入口として機能する。夜、車内でスピーカーの音量を上げて聴くのが向いている。歌詞が分からなくてもフロウの気持ちよさが体に届く。

豆知識

Ezhel(本名Ömer Sercan İpekçioğlu)は2018年5月、シングル内でのマリファナ関連表現を理由に「麻薬使用の推奨」で告発され一時拘束された。無罪判決後、彼はベルリンに拠点を移し、以降ドイツを主戦場としつつトルコにも定期リリース。彼の父親は元プロサッカー選手Erdal İpekçioğluで、この経歴が一時期メディアで話題になった。Ceza の姉Ayshe(本名Ayşe Özçalkan)は1990年代後半に一時ラッパーとして活動、Turkish rapの最初期の女性MCの一人だったが、2000年代半ばに音楽から引退した。ドイツのCartelのメンバーErci-Eは後にトルコ本国に移住、2000年代のイスタンブール・ラップ・シーンの橋渡し役となった。

影響・派生で結ばれたジャンル

トルコラップを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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