ペヨーテ・ソング(先住民教会聖歌)
アメリカ先住民教会(NAC)の儀礼で、ペヨーテ礼拝の一晩を通して歌われる祈祷歌。
どんな音か
ペヨーテ・ソングは一晩かけて歌われる祈祷歌で、単調な手太鼓の拍を中心に、ゆっくりとした反復的な旋律が重ねられる。歌い手は鼻腔をよく使い、音程を少しぼかすような、瞑想的な発声で歌う。同じフレーズが何度も繰り返されることで、時間感覚が薄れていき、儀礼の参加者全体が同じ精神状態へ導かれていく。楽器は最小限—主に手太鼓とときおり竹笛—で、音色そのものより、その響きが空間に満ちていくことが重視される。
生まれた背景
アメリカ合衆国先住民教会は1880年前後、複数の部族の指導者たちがペヨーテ(サボテンから得られる幻覚物質)を儀式の中心に据えることで組織された。先住民たちの伝統的な精神修行と、キリスト教の礼拝形式が融合した独自の宗教体系である。ペヨーテ・セレモニーは日の入りから日の出まで続き、その間を通して歌詞のない、あるいは簡潔な言葉だけの歌が延々と歌われる。この儀式は先住民のアイデンティティと精神的自立の回復に深く結びついていた。
聴きどころ
聴く際は、まず手太鼓の単調な拍子に意識を合わせる。その上に重ねられる声は、最初は地味に聞こえるかもしれないが、繰り返しを聞くうちに、声のわずかな揺らぎや音程の微妙な変化が際立ってくる。各歌い手がどのタイミングで息継ぎをするか、どこで音を延ばすかといった、個々の技法の違いも楽しみどころ。セレモニーの進行とともに、歌のテンポや強さが少しずつ変わっていく構造にも耳を傾けたい。
発展
1918年オクラホマ州で先住民教会公式設立、1978年米国先住民宗教自由法でペヨーテ宗教使用が連邦保護された。21世紀現在も全米約30万人の信徒が儀礼を継続し、ジョー・トヒー・ジュニア、ヴァーディ・キーセル等の歌い手が録音を残している。
出来事
- 1885頃: キオワ族でペヨーテ儀礼定着
- 1918: 先住民教会オクラホマ公式設立
- 1978: 米国先住民宗教自由法成立
- 1994: ペヨーテ宗教使用、連邦法で恒久保護
派生・影響
現代先住民フォーク・ロック(R.カーロス・ナカイ等)、米国フォーク・リヴァイヴァル運動の先住民音響モチーフ、近年の世界スピリチュアル音楽分野に重要な遺産を残す。
音楽的特徴
楽器水太鼓、ゴード(瓢箪がらがら)、声(独唱とコーラス唱和)
リズム急速安定拍、ヴォーカブルー(意味を持たない音節)、コール&レスポンス、夜通し儀礼
代表アーティスト
- Primeaux & Mike
代表曲
- Way Of Life: Healing Songs — Primeaux & Mike (1996)
日本との関係
日本ではほとんど認知されていない。民族音楽学の学者が学術的に扱うことはあっても、一般的な音楽リスナーの耳には届いていない。ただし、シャーマニズムや民族宗教に関心を持つ人の間では、スピリチュアル音楽として認識されることもある。
初めて聴くなら
Primeaux & Mikeの『Way Of Life: Healing Songs』(1996年録音)が最適。この記録は、ペヨーテ・セレモニー自体ではなく、その精神を引き継いだ現代的な治癒音楽として構成されており、儀式の厳粛さと現代性の両立を聴くことができる。夜間に、ゆっくり時間をかけて聴くのが推奨される。
豆知識
ペヨーテの宗教的使用は、アメリカ合衆国の法律下で1994年まで先住民教会信者にのみ例外が認められていた。ペヨーテ・セレモニーの歌には、元々は言語化されていない精神状態を後から言葉で記述した賛美歌が存在し、その記述プロセス自体が、先住民たちの信仰体系をどう西洋に説明するかという歴史的な葛藤を反映している。
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- ブルース・カントリーブルース
- ジャズラグタイム
- 宗教・霊歌ゴスペル
- ブルース・カントリーケイジャン音楽
- 伝統・民族ハワイアン・ファルセット
