現代ヌエボ・フラメンコ
2018年 Rosalía《El Mal Querer》以降のポスト・ロサリア期に立ち現れた、伝統派カンテを継承しつつ現代ポップ/ラップ/ジャズを折衷する若い世代のフラメンコ。Israel Fernández・Rocío Márquez・María José Llergo が代表格。
どんな音か
現代ヌエボ・フラメンコの音を初めて聴くと、多くの人は『これは伝統フラメンコなのか、現代ポップなのか』と迷うだろう。それは正しい迷いで、実際、イスラエル Fernández《Amor》(2020、Diego del Morao ギター共作)を聴くと、伝統派カンテ・ヒターノの純度を厳密に継承した歌唱と、現代的なプロダクション(スタジオ録音のクリアな音響、時にサブベースの補強)が重ね合わされている。これは Rosalía《El Mal Querer》(2018)以降のポスト・ロサリア期に立ち現れた、伝統派フラメンコの若い世代の路線で、Rosalía の『ポップ寄り』の解釈とは異なり、伝統派カンテの厳密な継承を軸に据える。中心には イスラエル Fernández(1988-)、Rocío Márquez(1985-)、María José Llergo(1994-)、Silvia Pérez Cruz(1983-)、Miguel Poveda(1973-)、C. Tangana(1990-、クロスオーバー役)が並ぶ。
生まれた背景
決定的な起点は2018年11月2日、Rosalía Vila Tobella《El Mal Querer》のリリースで、これがフラメンコの若い世代への商業的な扉を開いた。しかし現代ヌエボ・フラメンコの本質的な中心は Rosalía の『ポップ寄り』の解釈ではなく、伝統派カンテの純度を保ちつつ現代性を導入する若い世代のカンタオール群にある。2018年 イスラエル Fernández《Universo Pastora》(Bienal de フラメンコ de Sevilla で上演)、2019年 María José Llergo《Ay mamá》(初シングル)、2020年 Rocío Márquez《Visto en El Jueves》などが並行して立ち上がった。決定打は2020年 イスラエル Fernández《Amor》(Diego del Morao ギター共作)で、伝統派カンテの純度と現代プロダクションの折衷の代表作となった。以降2021年 C. Tangana《El Madrileño》の《Los Tontos》(イスラエル Fernández 共演)、2022年 Rocío Márquez《Tercer Cielo》(Bronquio 共作)でシーンが円熟した。
聴きどころ
第一に、伝統派カンテの純度に注意。イスラエル Fernández は Corral de Almaguer(トレド県)出身のヒターノで、伝統派 Bienal de フラメンコ de Sevilla で認められた本格派の声質を持つ。Rocío Márquez はウエルバ出身、Universidad de Sevilla でフラメンコ学の博士号を取得した学者兼歌手。両者共に現代性の導入は伝統派の厳密な継承の上に成り立つ。第二に、伴奏編成の変化。伝統的なフラメンコ・ギター+カホン+パルマに加えて、María José Llergo はローズ・ピアノ+シンセパッド、Rocío Márquez《Tercer Cielo》は電子音楽の Bronquio との共作、Silvia Pérez Cruz はカタルーニャ人としてシャンソン・ジャズ語彙を折衷する。第三に、compás(拍節構造)の保持。ほぼ全ての楽曲がフラメンコの伝統的な12拍(soleá、bulerías、siguiriya)または4拍(tango、rumba)の compás を厳密に保つ。
発展
2020-22年、Israel Fernández が Diego del Morao(ギター)と共作した《Amor》(2020)がフラメンコ・カンテの純度と現代プロダクションの折衷の代表作となり、C. Tangana との共作《Los Tontos》(2021、《El Madrileño》収録)でフラメンコ×トラップのクロスオーバー路線が確立された。2022年 Rocío Márquez《Tercer Cielo》は Bronquio(電子音楽家)との共作で、伝統派カンテと電子音楽の統合の代表作となった。María José Llergo《Sanación》(2020)がフラメンコとネオ・ソウルの折衷の頂点。2020年代中盤、Silvia Pérez Cruz《Toda la vida, un día》(2023)、Miguel Poveda《Enlorquecido》(2023、García Lorca 詩集)が続き、シーン全体が円熟した。
出来事
- 2018: Rosalía《El Mal Querer》(世代的分水嶺)
- 2018: Israel Fernández《Universo Pastora》
- 2019: María José Llergo《Ay mamá》
- 2020: Israel Fernández《Amor》(Diego del Morao 共作)
- 2020: María José Llergo《Sanación》
- 2021: C. Tangana × Israel Fernández《Los Tontos》
- 2022: Rocío Márquez《Tercer Cielo》(Bronquio 共作)
- 2023: Silvia Pérez Cruz《Toda la vida, un día》
- 2023: Miguel Poveda《Enlorquecido》
派生・影響
flamenco(modernized_from、伝統フラメンコの直系変種)、flamenco-cante(modernized_from、カンテの現代化)、spanish-pop-rosalia-gen(sibling、ポップ寄りの兄弟)、nuevo-flamenco(1980年代の Paco de Lucía / Camarón 世代の後継、influenced)。
音楽的特徴
楽器フラメンコ・ギター、カホン、パルマ(手拍子)、カンタオール(独唱)、時にピアノ・ローズ、時に808キック・シンセパッド、時に管弦楽
リズムフラメンコの伝統的な compás(12拍の soleá、bulerías、siguiriya、tango 4拍など)を基盤に、時にトラップ 4/4 の 808 パルス、時にジャズ・ハーモニーの拍節を折衷、時に自由リズムの temple
代表アーティスト
- Rocío Márquez
- Israel Fernández
- María José Llergo
代表曲
Amor — Israel Fernández (2020)
Universo Pastora — Israel Fernández (2018)
その後の代表曲
Sanación — María José Llergo (2020)
Los Tontos — C. Tangana (2021)
Tercer Cielo — Rocío Márquez (2022)
Toda la vida, un día — Silvia Pérez Cruz (2023)
日本との関係
現代ヌエボ・フラメンコの日本受容は2010年代後半以降、Rosalía《El Mal Querer》(2018)の日本での小さなヒットを通じてスペイン音楽への関心が広がった系譜の中で発達した。日本のフラメンコ舞踊教室(全国に約500の教室、約3万人の稽古人口)は伝統的にはパコ・デ・ルシア・カマロン系譜の1970-80年代フラメンコを中心としているが、2010年代後半以降、若いフラメンコ愛好家の間で イスラエル Fernández・María José Llergo が徐々に認知されている。日本フラメンコ協会(JFA、1975-)は毎年 Cumbre Flamenca という国際フェスを開催、Rocío Márquez の日本公演も実現している。ただし日本での認知度は依然として限定的で、Rosalía の商業的な成功と対照的に伝統派カンテ寄りの イスラエル Fernández は日本ではまだニッチな存在。
初めて聴くなら
まず イスラエル Fernández《Amor》(2020、Diego del Morao ギター共作)から。伝統派カンテの純度と現代プロダクションの折衷の代表作。次に Rocío Márquez《Tercer Cielo》(2022、Bronquio 電子音楽共作)、María José Llergo《Sanación》(2020、フラメンコ×ネオ・ソウル)。深く入るなら イスラエル Fernández《Universo Pastora》(2018)、C. Tangana × イスラエル Fernández《Los Tontos》(2021、《El Madrileño》)、Silvia Pérez Cruz《Toda la vida, un día》(2023)、Miguel Poveda《Enlorquecido》(2023、García Lorca 詩集)。伝統派の入り口として Camarón de la Isla《La Leyenda del Tiempo》(1979)から遡って聴くのも向いている。
豆知識
イスラエル Fernández は Corral de Almaguer(トレド県)のヒターノ家系出身、7歳から地方フラメンコ・ペーニャ(会員制の伝統派会場)で歌い始めた本格派で、彼のような『純度の高い伝統派』が Rosalía 世代のポップ・フラメンコと並走して立ち上がったのが2010年代後半の特徴だった。もう一つ:Rocío Márquez の Universidad de Sevilla の博士論文は『フラメンコの都市空間論』を主題化した学術書で、彼女は歌手としての活動と並行して学者としても発表を続けている。カンタオーラで博士号取得者は極めて稀有。もう一つ:María José Llergo は Berklee College of Music Valencia 校を卒業、フラメンコ・カンテとネオ・ソウル・ジャズ書法の教育を両立させた若い世代の代表で、2023年 Cadena SER のフラメンコ音楽賞受賞。彼女の書法は伝統派の外側からフラメンコを再解釈する若い世代の路線を体現する。
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- ポップロサリア世代スペイン・ポップ
- ロック・メタルスペイン・インディー
