フラメンコ
スペイン南部アンダルシア地方の、歌・踊り・ギターからなる伝統芸能。
どんな音か
フラメンコ最大の特徴は、12拍を一周期とするリズム「コンパス」にある。その上に、ナイロン弦のスペイン・ギター、歌(カンテ)、踊り(バイレ)、手拍子(パルマ)、足踏み(サパテアード)、箱型打楽器のカホンが重なるのが基本編成だ。テンポは曲の種類(パロと呼ぶ)によって大きく変わる。曲種ごとにリズムの区切り方も違い、たとえばブレリアスは速く跳ねるように、ソレアは重くゆったりと、同じ12拍を別の表情で刻む。歌い手はしゃがれた声で、コブシ(節回し)をきかせ、絶叫に近い高音まで使う。ギターは静かなアルペジオから、複数の指を素早く開いて弦をかき鳴らすラスゲアード、胴を叩いて打楽器のように響かせるゴルペまで使い分ける。フラメンコの響き(ハーモニー)には、アラブ、ユダヤ、ロマ、そしてキリスト教世界の音楽が溶け合っている。半音より狭く揺れる音階の歌い回しに、下降して解決しきらないコード進行「アンダルシア終止」が重なり、独特の翳りのある音色を生む。
生まれた背景
起源は18世紀末から19世紀初頭。アンダルシアのロマ(ヒターノ)、ムーア人系、ユダヤ系、そして土着のアンダルシア(キリスト教・カスティーリャ系)の民俗音楽が混ざり合い、社会の周縁に置かれた人々のあいだで生まれたとされる。発祥の地はセビーリャ・カディス・ヘレスを結ぶ三角地帯とされ、後にグラナダがサンブラの伝統を加えた。町ごとに得意なパロや歌い口が違うのも、この音楽の面白さだ。19世紀後半には「カフェ・カンタンテ」(フラメンコを聴かせる酒場)が成立し、1920年代にはギタリストのラモン・モントヤがギターの奏法と表現の幅を一から作り直した。20世紀後半には、盟友どうしのカマロン・デ・ラ・イスラ(カマロン)とパコ・デ・ルシアが現れ、フラメンコを世界の舞台へ押し上げた。二人は1969年から伝統的なパロの名演を録音し続け、それらは今も「第二の正典」と仰がれる。一方でパコは、1970年代後半からジャズの和声やベースを取り込み、フラメンコの境界を広げていった。以後もトマティートらが超絶技巧の系譜を、後のスター歌手ロサリアにも影響を与えた名歌手エストレージャ・モレンテが歌の系譜を継ぎ、2010年代にはそのロサリアがフラメンコをポップへ橋渡しした。
聴きどころ
ブレリアスやシギリージャなど、曲種ごとに違う「コンパス」(独特の拍の取り方)にまず耳を傾けたい。歌い手のコブシ(節回し)、絶叫、ささやきの落差も聴きどころだ。ギター・踊り・歌・手拍子が互いに投げ合うコール&レスポンスも見どころになる。足踏みや手拍子で全員が同じ拍を共有する音楽だから、録音より生のほうが構造が見えやすい。
音楽的特徴
楽器フラメンコギター、カスタネット、手拍子(palmas)、声、靴音(zapateado)
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- Paco de Lucía
- Camarón de la Isla
- Tomatito
代表曲
- Entre Dos Aguas — Paco de Lucía (1973)
- Almoraima — Paco de Lucía (1976)
- La Leyenda del Tiempo — Camarón de la Isla (1979)
- Volando Voy — Camarón de la Isla (1979)
- Spain (Concierto de Aranjuez) — Paco de Lucía (1991)
日本との関係
初めて聴くなら
豆知識
「フラメンコ」の語源は諸説あり、未確定だ。最もよく挙げられるのは「フランドル地方の人」を意味する語に由来するという説で、派手な制服の軍人を指す呼び名が転じたとも言われる。鳥のフラミンゴと同語源とされるのも、このフランドル説の派生だ。ほかにアラビア語起源とする説もある。flama(炎)由来説や、派手に踊る者を指した俗語が転じたという説は、比較的マイナーな俗説とされる。2010年にはユネスコの無形文化遺産に登録された。
