エレクトロニック

グリッチコア

Glitchcore

北米 · 2020年〜

2020年前後にTikTok美学と結合した、ピッチダウン/アップを激しく繰り返す高速エディット形式のハイパーポップ亜種。

どんな音か

グリッチコアはピッチシフトとスピードランピング(テンポを急激に変える処理)を武器にしたエディット主導の音楽で、2020〜21年のTikTokを震源地とした。1つの曲の中でピッチが1オクターブ以上跳び上がったり落ちたりし、テンポが一瞬2倍になってまた元に戻る——その「バグった」感覚がジャンル名の「グリッチ(glitch=誤作動)」に由来する。ベースのジャンルはハイパーポップで、きらきらしたシンセとオートチューンボーカルが土台にある。ericdoaの楽曲は声とビートが頻繁にスタッターし、耳が追いつく前に次の展開が来る設計で、短い尺(2分前後)の中に情報量を詰め込む。

生まれた背景

グリッチコアはTikTokの「サウンド」文化と切り離せない。ユーザーが15〜60秒の動画に合わせて音楽を選ぶプラットフォームの性質上、「出だしの数秒でつかむ」「予測を裏切る展開」を持つ音源が自然にバイラルしやすく、グリッチコアのピッチ変動や突然のスタッターはまさにそこを突いている。ericdoa(エリックドア)やmidwxstはハイパーポップの延長上で制作を始め、実験的なエディット手法をSoundCloudに投稿するところから注目を集めた。COVID-19による外出制限中の2020年に、在宅でのDAW制作と動画投稿が重なったことでシーンが急速に可視化された。

聴きどころ

ericdoaの「sad face :(」(2020)はグリッチコアの基本的な語法を2分足らずに凝縮している。最初の20秒でピッチが一度急変する箇所があり、そこを「気持ち悪い」と感じるか「面白い」と感じるかで、このジャンルとの相性が大体分かる。スタッターが入るタイミングは「間違い」ではなくエフェクトとして設計されているので、意図的なものとして聴くと構造が見えてくる。

音楽的特徴

楽器DAW、サンプラー

リズム可変BPM、ステュッター・エディット

代表曲

  • Tryingmidwxst (2020)
  • still in love :(ericdoa (2020)
  • sad face : (ericdoa (2020)
  • 10kmidwxst (2021)
  • celibateericdoa (2020)

日本との関係

日本ハイパーポップ・シーンはグリッチコアとほぼ同時期に形成されており、100 gecs(グリッチコアの親ジャンルに相当するアーティスト)の影響を受けた日本語ボーカルのトラックメイカーが複数活動している。TikTokではグリッチコア的なエディット手法が動画BGMとして使われることがあり、「音楽ジャンル」としては認識されていなくても、音の感触としては広まっている。

初めて聴くなら

ericdoaの「sad face :(」か「still in love :(」(2020)のどちらかから始めるといい。midwxstの「Trying」(2020)はやや安定した構造を持ち、グリッチコアの中では聴きやすいほうだ。夜の一人作業中にバックグラウンドで流すと、2分が気づかないうちに過ぎている。

豆知識

グリッチコアの「コア(core)」はハードコアの意味ではなく、TikTokで「〇〇コア」と呼ばれる美学ラベルの文法を踏襲している(コテージコア、ダークアカデミアなど)。音楽ジャンルの命名法がTikTokのサブカルチャー語法に侵食された最初期の例のひとつで、音楽的な定義より「TikTokの雰囲気」で括られた側面がある。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図2010年代2020年代グリッチコアグリッチコアハイパーポップハイパーポップ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
グリッチコアを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

北米 · 2020年前後 (±25年)

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