ファンキ・カリオカ
1980年代リオデジャネイロのファヴェーラで生まれた、米マイアミ・ベースのリズムを在地化した低音特化のストリート・ダンス音楽。
どんな音か
リオデジャネイロのファヴェーラ(貧民街)発のダンス音楽である。BPM130〜150・4拍子を土台に、低音を強く効かせるのが基本だ。1990年代には米国産のループ「ヴォルト・ミックス(Volt Mix)」を土台にしたビートが主流だった。だが1990年代末、これに代わってアフロ・ブラジル由来の太鼓をサンプリングした「タンボルゾン(tamborzão)」が登場する。音作りの土台はドラムマシン(リズムマシンの定番機種)とシンセ・ベース。そこにマイアミ・ベースやサンバ、街頭の掛け声、MCの声などのサンプルを重ねる。その上を、ラップと歌の中間のようなポルトガル語ヴォーカル(男女とも)が鋭く前へ出てくる。1曲の長さは2〜4分ほど。歌詞はダンスや性、ファヴェーラの暮らし、警察、ストリートの暴力、ブランドや贅沢まで幅広い。派生は多彩だ。音はほぼ同じビートでも、語る世界が枝分かれしていく。富を誇示する「オステンタソン(ostentação)」、政治を語る「コンシエンチ(consciente)」、過激すぎて発禁になる「プロイビダォン(proibidão)」などがある。そして2020年代、旋律をほぼ削ぎ落とし、歪んだ低音とビートと声だけで成り立つ「マンデラォン(mandelão)/ブルシャリア(bruxaria)」が現れる。
生まれた背景
1980年代後半、リオのDJ Marlboroがアメリカ合衆国マイアミ・ベースの12インチ・レコードを輸入し、ファヴェーラのダンスホール「バイレ(baile)」でかけ始めたのが原型となった。彼の制作したトラックやコンピレーションがリオ独自の形を固め、1990年代から2000年代にかけて、国内の主要メディアにほぼ無視されながらも、多くのDJやMCが独自の商業シーンを築き上げた。英語圏が注目し始めたのは、アメリカ合衆国のプロデューサーDiplo(および2006年設立の彼のレーベルMad Decent)が2000年代半ば以降に紹介してからである。2010年代後半には、リオのファンケイラ(ファンク歌手)から国際ポップへ越境した Anitta らが現れる。SpotifyやTikTokのダンス文化を追い風に、かつてビートを輸入していたファンキ・カリオカは、いまや世界へ送り出す側に回った。
聴きどころ
発展
2000年代のMCタチ・カキ、MCマルシニーニョ、2010年代以降のアニタが商業的・国際的成功を収め、ブラジル汎国民ポップ・国際フェスティバル文化に組み込まれた。アマピアノ、ジャージー・クラブとの交差も進む。
出来事
- 1989: DJマルレン回し開始
- 2002: MCタチ・カキ
- 2010: アニタ・デビュー
- 2017: アニタ国際メインストリーム
派生・影響
マイアミ・ベースから派生してファンキ・カリオカが成立。レゲトン、アマピアノと交差。
音楽的特徴
楽器ドラムマシン、シンセ、サンプラー、声
リズムTR-808低音、タンボル拍子、ポルトガル語ラップ・シャウト
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- MC Marlboro
- MC Marcinho
- Anitta
- MC Fioti
代表曲
- Rap das Armas — MC Marlboro (1995)
- Bum Bum Tam Tam — MC Fioti (2017)
- Envolver — Anitta (2022)
Furacão 2000 - Eu Quero Tchu — MC Marlboro (2000)
Sou Eu Que Tô — MC Marcinho (2000)
日本との関係
初めて聴くなら
ジャンルの土台を知るなら「Rap das Armas」から。原曲は MC Júnior e MC Leonardo が書いた曲で、Cidinho & Doca が歌い替えたバージョンが2007年の映画『トロッパ・ヂ・エリーチ(エリート・スクワッド)』で世界に知られた一曲だ。世界的バイラルを体験するなら Anitta『Envolver』(2022)。古典は Tati Quebra Barraco『Boladona』(2004)、最近のものなら Ludmilla『Maldivas』(2022)が入り口になる。MCたちがリオ北部・西部の自宅スタジオで荒く速く作り上げる、ストリート直結の制作感も併せて味わいたい。
豆知識
ファンキ・カリオカの「バイレ(baile=舞踏会)」はファヴェーラの中で開かれ、警察と犯罪組織の対立に巻き込まれることも多い、社会的に複雑な空間だ。Anitta は『Envolver』(2022)で、今世紀のブラジル人ソロ歌手として最高位の Billboard Hot 100 入り(最高70位)を記録し、Billboard Global Excl. U.S. では1位に立った。輸出ポップへ駆け上がった一方で、根本には皮肉がある。1990年代の基本ビートはDJ Battery Brainの「8 Volt Mix」(1988)のループに頼っていたが、これは権利処理されていないアメリカ合衆国の音源で、ブラジルでは2000年代から長く係争が続いてきた。ジャンル全体が乗っていた土台そのものが、法的には自分たちのものではなかったのだ。
