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ラテン・カリブ

クンビア・ビジェーラ

Cumbia Villera

ブエノスアイレス広域(La Matanza、Fuerte Apache、Villa Fiorito) / アルゼンチン / 南米 · 1998年〜

別名: Cumbia villera argentina / Villera

ブエノスアイレスのスラム発、1990年代末新自由主義下の労働者階級プロテスト・クンビア。

どんな音か

音の三点セットは、キーボード(Casio 系の安価な家庭用モデルが多い)のシンプルな2〜3和音のリフ、エレキベースの低音、そしてロック的なドラムキット。伝統的な cumbia romántica にあるコンガや管楽器は最小限で、ギューロが2/4のシンコペーションを刻む。テンポは95-105BPMの中庸。歌唱様式は「街角の会話」で、ボーカルは飾らず直截に、時に叫び声混じりに、villa の日常俗語(lunfardo と villera jargon)で歌う。歌詞テーマの明確さがジャンルの本質で — 職の無さ、警察暴力、路上経済(pancake=薬物の隠語、chorreo=強盗)、コカインとマリファナ、女性キャラクター「piba」の描写、そして「ricos」(金持ち)への嘲りが繰り返し登場する。同時代の cumbia santafesina のロマンティックな甘さを完全に投棄した「反甘さ」の音楽である。

生まれた背景

1990年代、メネム政権(1989-99)下のアルゼンチンでは国営企業の急激な民営化と輸入自由化により製造業が崩壊、ブエノスアイレス広域(La Matanza、Merlo、Moreno、Quilmes)の労働者階級コミュニティは失業・貧困化の危機に直面した。同時期、地方(サンティアゴ・デル・エステーロ、コリエンテス)と隣国(パラグアイ、ペルー、ボリビア)からブエノスアイレスへの内部移民が急増し、彼らは informal な住宅地 villa miseria に集中した。1998年頃、La Matanza 郡出身の若手シンガー Pablo Lescano(1978-、当時のバンド Amar Azul、Flor de Piedra を経て)が Damas Gratis を1999年に結成、キーボードのミニマルなリフとスラム俗語の歌詞を組み合わせた『Se te ve la tanga』でスタイルを確定した。同時期に Pibes Chorros(2000結成、リーダーは Ariel「Toti」Salinas)、Yerba Brava(2000、アルバム名がジャンル命名的な『クンビア・ビジェーラ』)、La Piba(女性ボーカル、2001)が並行して登場し、深夜TV番組『Pasión de Sábado』を通じて全国的普及を果たした。2001年12月の経済破綻(コラリート、大統領辞任連鎖)前後がピーク。中産階級側からは「暴力の美化」「女性蔑視」との批判を浴び、複数のTV局が villera 曲の放送自粛を実施したが、それが逆にジャンルの反体制記号性を強化した。2010年代以降は L-Gante の RKT による新世代クロスオーバーで国際化を果たしている。

聴きどころ

Damas Gratis『Se te ve la tanga』(1999)の冒頭のキーボード・リフに注目 — Casio の家庭用モデルの音色そのままで、意図的に「安っぽく」聴こえる音響選択が、伝統的な cumbia romántica の華麗さへの明確な拒絶を示す。Pablo Lescano のフレーズ選択はミニマルで、2〜3和音の反復から離れない。Pibes Chorros『Andrea』(2001)のボーカル・スタイルは、Toti Salinas の絞り出すような直截さで — 歌唱訓練を受けていない若者の街角の話し方そのものをステージに乗せている。歌詞に対して耳を澄ますと、当時のブエノスアイレスの警察暴力・薬物経済・失業の日常語彙が並ぶ。L-Gante『L-Gante RKT』(2020)は伝統villera の Casio 音色を継承しつつ、reggaeton dembow の跳ねと Auto-Tune 処理を加えた新世代の音の型で、cumbia villera が2020年代のラテン・アーバンに接続された瞬間を音に聞くことができる。

発展

2001年12月のアルゼンチン経済破綻(コラリート、フェルナンド・デ・ラ・ルア政権崩壊)前後がピークで、Damas Gratis の2001年アルバム『Para los Pibes』は当時のブエノスアイレス広域の失業青年層を代表する声となった。中産階級側からは「暴力の美化」「女性蔑視」との激しい批判を受け、複数のテレビ局が villera 曲の放送自粛を実施したが、それが逆にジャンルの反体制記号性を強化した。2010年代以降は L-Gante(Elián Ángel Valenzuela、2000-)を筆頭に、cumbia villera と reggaeton dembow を融合した新形式 RKT が現れ、L-Gante の2020年『L-Gante RKT』が世界的ヒット(Bizarrap #38、2021)、villera はその実質的な母胎として国際的に認知された。

出来事

  • 1999: Damas Gratis 結成、Pibes Chorros 結成準備
  • 2000: Yerba Brava『Cumbia Villera』アルバム
  • 2001: Damas Gratis『Para los Pibes』、アルゼンチン経済破綻
  • 2002: TVショー『Pasión de Sábado』で全国普及
  • 2020: L-Gante『L-Gante RKT』で RKT クロスオーバー
  • 2021: Bizarrap Session #38 with L-Gante で国際化

派生・影響

RKT(2020年代アルゼンチン、L-Gante)、Cumbia 420(南欧・チリの派生)、Trap argentino の一部リリック様式に影響。

音楽的特徴

楽器キーボード/シンセ、エレキベース、ドラムキット、ギューロ、時にコンガ、ボーカル、コーラス

リズムコロンビア・クンビアの2/4を95-105BPMに、シンセ・リフとロック的なドラム、ギューロが刻むシンコペーション

代表アーティスト

  • Damas Gratisアルゼンチン · 1999年〜
  • Pibes Chorrosアルゼンチン · 2000年〜2007
  • Yerba Bravaアルゼンチン · 2000年〜
  • La Pibaアルゼンチン · 2001年〜
  • L-Ganteアルゼンチン · 2019年〜

代表曲

その後の代表曲

日本との関係

日本でのクンビア・ビジェーラの認知は極めて低い。1990-2000年代のアルゼンチン音楽受容は主に Astor Piazzolla のヌエボ・タンゴ、Mercedes Sosa のヌエバ・カンシオン、そして Bajofondo や Federico Aubele の tango electrónica であって、villera は日本の主要ラテン音楽誌でもほぼ紹介されなかった。2020-21年に L-Gante の Bizarrap Session #38 が YouTube で世界的に拡散した際、日本の一部音楽ライター(『Latina』誌など)が RKT ジャンル解説記事の中で cumbia villera を「起源」として紹介したのが実質的な日本初の一般認知。日本のディガー系レコード店(渋谷 Los Apson? など)で1990年代末〜2000年代の villera オリジナル盤が中古で流通する例は極めて稀。

初めて聴くなら

最初の一曲は Damas Gratis『Se te ve la tanga』(1999、4分)、ジャンルの音楽的雛形が最もクリアに聴ける。次に Pibes Chorros『Andrea』(2001)で歌詞世界の直截さ、Yerba Brava『クンビア del Bombachudo』(2000)で当時のダンスフロア指向、L-Gante『L-Gante RKT』(2020)で2020年代の変容形へ。アルバムとしては Damas Gratis『Para los Pibes』(2001)、Pibes Chorros『Arriba las Manos』(2001)、Yerba Brava『クンビア・ビジェーラ』(2000)を推す。ドキュメンタリーとしては Adrián Rocca 監督『Rebelde con Causa: Historia de la クンビア・ビジェーラ』(2016)がジャンルの社会史入門。

豆知識

「villera」の語は「villa miseria(悲惨な村=informalな住宅地)」からの派生で、当初は蔑称として使われたが、担い手たちが肯定的に奪還した点でカネカやチカーノ音楽と同じロジックを持つ。Pablo Lescano(Damas Gratis)は Damas Gratis 結成前に Flor de Piedra というやや商業寄りのクンビア・バンドに所属していたが、そこでのキーボードの音色選択と歌詞方針を独立して villera スタイルに研ぎ澄ました。Pibes Chorros のリーダー Toti Salinas は2004年に交通事故で急逝(享年23)、villera 第一世代の若い犠牲者として記念される。2020年代の L-Gante RKT のブレイクスルーで、伝統villera の Pablo Lescano は L-Gante と何度も共演し、世代橋渡し役として再評価された。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1850年代1960年代1990年代2010年代クンビア・ビジェーラクンビア・ビジェーラクンビアクンビアチチャチチャレゲトンレゲトンRKTRKT凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
クンビア・ビジェーラを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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アルゼンチン · 1998年前後 (±25年)