RKT
アルゼンチンのクンビア・ビジェーラとレゲトン・デンボウを2020年代に融合した若年層音楽。L-Gante の Bizarrap Session #38 で国際化。
どんな音か
音の三点セットは、cumbia villera 由来の Casio 系キーボード・リフ(意図的に安っぽい音色を残す)、reggaeton dembow の跳ねる3+3+2 の拍節を打つドラムマシン、そしてラテン・トラップ経由の Auto-Tune ボーカルである。テンポは96-108BPMの中庸で、時にライブでは実際のティンバル(名前の元となった打楽器)が加わるが、多くの録音では純電子。歌詞世界は cumbia villera の直系で、ブエノスアイレス広域郊外のスラング(lunfardo villero)を全編で使い、無職・警察暴力・郊外パーティ・恋愛(女性キャラクター piba)・自己顕示の物質主義が繰り返し登場する。ラテン・トラップとの決定的な違いは「クンビアの2/4土台」を捨てない点 — キーボード・リフの反復と cumbia パーカッションの残響が RKT を villera 系譜に留める。
生まれた背景
RKT の名称由来は諸説あり、「RKT(ティンバル入り複合リズム)」の頭字語という説と、L-Gante 系の若年層スラングという説が並立する。2015-18年頃、ブエノスアイレス広域のDJ(DJ Tao、DJ Alex)が cumbia のキーボード・リフを reggaeton dembow のドラム・パッチに乗せる実験を始め、それを L-Gante(Elián Ángel Valenzuela、2000年ブエノスアイレス広域 General Rodríguez のスラム出身)が2019-20年に SoundCloud/YouTube 経由で若年層に届けた。2020年6月の DJ Alex 共作『L-Gante RKT』が YouTube で億単位再生を記録、2021年5月の Bizarrap Session #38 with L-Gante が Spotify Latin America 全域チャート入りし、RKT はスペイン・チリ・ウルグアイなど汎ラテン市場に届いた。2021-22年に DT.Bilardo、Perro Primo、Callejero Fino、Ecko が第二波を形成し、深夜TV『Los Últimos』と TikTok の踊りリールでジャンルが定着した。L-Gante 自身は2022年の殺人未遂事件起訴と2024年の無罪判決を経て、そのメディア騒動もジャンルの反体制記号性を強化した。
聴きどころ
L-Gante『L-Gante RKT』(2020)の冒頭のキーボード音色に注目 — Casio の家庭用モデルの安っぽい音がそのまま使われているのは、cumbia villera からの音響的継承の明示的な選択。次に reggaeton dembow の跳ねる3+3+2 の拍がキックとスネアで実現されているのが確認できる。Perro Primo『Nena Trakera』(2022)以降の第二波は、L-Gante 系よりミックスが洗練されており、Bizarrap 世代のトラップ的クリーンさが加わっているのが聴き取れる。歌詞面では lunfardo villero(ブエノスアイレス広域のスラング)の使用密度が RKT の中核で、伝統 cumbia santafesina のスペイン語標準語との対比が明確。全曲を通じて、cumbia の2/4土台が失われていない点(reggaeton にほぼ吸収されていない)が RKT を判別するリスニング基準。
発展
2021-22年に L-Gante を中軸として、DT.Bilardo、Perro Primo、Callejero Fino、Ecko が同じ RKT 系列のプロダクションを次々にリリースし、ブエノスアイレスの深夜TV『Los Últimos』や TikTok の踊り動画を通じて国民的ジャンルに定着した。2023-24年には Bizarrap の第二世代セッションが Perro Primo(Session #57 系)などを迎え、RKT がラテン・アーバンの正規カテゴリの一つとして扱われるようになった。L-Gante 自身は2022年に殺人未遂事件で起訴、2024年に無罪判決を得たが、この社会報道もジャンルの反体制記号性を強化した。
出来事
- 2018-19: DJ Tao、DJ Alex による cumbia + dembow 実験
- 2020-06: L-Gante & DJ Alex『L-Gante RKT』YouTube 億単位再生
- 2021-05: Bizarrap Session #38 with L-Gante で汎ラテン化
- 2022-23: DT.Bilardo、Perro Primo、Callejero Fino が RKT を国民ジャンルに定着
- 2024: L-Gante 無罪判決とラテン・アーバン正規化
派生・影響
Latin urban 系のアルゼンチン・ロデオ(rodeo argentino)、Cumbia 420(トラップ+マリファナ文化)、汎ラテン・アーバンへのアルゼンチン発クロスオーバー。
音楽的特徴
楽器キーボード/シンセ、ドラムマシン、エレキベース、時にティンバル、ボーカル(Auto-Tune)
リズムcumbia villera の2/4ドラムキット土台に、レゲトン・デンボウの3+3+2 の跳ね、96-108BPM
代表アーティスト
- DJ Alex
- Ecko
- Callejero Fino
- DT.Bilardo
- Perro Primo
代表曲
Cumbia RKT — L-Gante (2019)
El Últimoromántico — L-Gante (2021)
その後の代表曲
Amor Pasajero — Ecko (2019)
Malianteo — L-Gante (2021)
Cachetada — Callejero Fino (2022)
Nena Trakera — Perro Primo (2022)
Perro Loco — DT.Bilardo (2022)
日本との関係
初めて聴くなら
最初の一曲は L-Gante & DJ Alex『L-Gante RKT』(2020、3分)、ジャンルの音楽的定義が最もクリアに聴ける曲。次に L-Gante「BZRP Music Sessions #38」(2021)で国際化の瞬間、L-Gante with Damas Gratis『Malianteo』(2021)で cumbia villera 世代との世代橋渡し、Perro Primo『Nena Trakera』(2022)で第二波の音へ。アルバムとしては L-Gante『クンビアRKT』(2020)、Perro Primo『Buena Onda』(2022)を推す。
豆知識
L-Gante の芸名の「L」は本名 Elián の頭文字、「Gante」は General Rodríguez 郡のスラング「元気の良い若者」の意で、彼が育った具体的地名と労働者階級的アイデンティティを同時に示す。DJ Alex は当初 L-Gante の SoundCloud セッションで匿名的なプロデューサーだったが、2020年『L-Gante RKT』が YouTube で拡散するにつれてジャンル制作者として認知された。Bizarrap Session #38(2021)は Bizarrap 側のシリーズ史上、初めて cumbia 系ジャンルを迎えた回で、Bizarrap のヒップホップ/トラップ・シリーズ内でのラテン・アーバン化の起点として位置づけられる。
