伝統・民族

アナトリア民俗音楽(テュルキュ)

Anatolian Folk (Türkü)

トルコ / 中東 · 1500年〜

別名: Türkü / Halk müziği

現代トルコ各地の地方民俗歌の総称で、バーラマ(サズ)を中心に、結婚式・葬儀・農作業の機能歌を含む広汎な領域。

どんな音か

サズ(バーラマ)という長い首の撥弦楽器が低く鳴り、その上に男性の歌声が重なる。リズムはなめらかで、拍の区切りが日本民謡ほど明確ではなく、むしろ旋律が装飾音を行き来する感覚。歌詞は恋愛、別離、故郷、労働についての物語を歌い、同じフレーズが何度も繰り返されることで瞑想的な空気をつくる。結婚式や葬儀のような機能の場で歌われるため、その場の感情を反映する歌い方になる。録音の多くは素朴で、スタジオ処理は最小限。

生まれた背景

トルコ全土の農村と町で歌い継がれた民俗歌謡の総称がテュルキュ(民族歌謡)。オスマン帝国時代から近現代まで、具体的な成立年を特定しきれないが、サズという楽器とともに数百年の深さがあると考えられている。アナトリア内陸部、黒海沿岸、地中海沿岸と地域によってテュルキュの色が異なり、同じメロディが地方ごとに方言のように変わることもある。

聴きどころ

サズの弾き方。単純なコードストロークもあれば、複数の弦をはじく奏法、通す音を工夫した装飾もある。歌詞の内容よりも、声の質感や音程の揺らぎに注目する。同じ歌詞が反復されるなかで、歌い手がどこで強調し、どこで力を抜くか。背景に聞こえる環境音(他の楽器、拍手、掛け声)も、ジャンルの生きた感覚を伝える。

発展

20世紀後半にネシェト・エルタシュ、アシュク・マフズーニ・シェリフ、アシュク・ヴェイセル、ベルキス・アクカレ、エディプ・アクバイラムらが世代を更新した。1980年代以降のアナドル・ロックやカスト・ロックを介して若者層にも継承され、現代のジャズや実験音楽との融合も進む。

出来事

  • 1923: トルコ共和国成立
  • 1937: ラジオ・アンカラの民俗音楽部局設立
  • 1979: アシュク・マフズーニ・シェリフ全盛期
  • 2010: ジェム儀礼ユネスコ候補リスト

派生・影響

アシュク詩、アレヴィー儀礼ジェム、アナドル・ロック、現代トルコ・ジャズと交差。

音楽的特徴

楽器バーラマ、ダウル、ズルナ、ケマンチェ、声

リズムウズン・ハヴァとクルク・ハヴァ、9/8と7/8、輪舞ハライ

代表アーティスト

  • Aşık Veyselトルコ · 1933年〜1973
  • Neşet Ertaşトルコ · 1957年〜2012

代表曲

日本との関係

1960〜1970年代にアナトリア民俗音楽の録音が国際流通し、日本の音楽愛好家や民族音楽研究者にも知られるようになった。しかし、大きな流行には至らず、むしろ民族音楽の教材やワールドミュージック・フェスティバルの文脈で参照されることが多い。民族音楽学科を持つ大学や、非西洋音楽に関心を持つサークルで聴かれている。

初めて聴くなら

Aşık Veysel『Uzun Ince Bir Yoldayim』(1965) を夜に一人で聴くなら、言葉の意味が分からなくても、歌い手の人生が沁み込んでくる感覚を味わえる。昼間に動作を伴いながら聴くなら、Neşet Ertaş『Gonul Dagi』(1976)。どちらもサズの弦音とヴォーカルのバランスが美しく、テュルキュの本質がシンプルに伝わる。

豆知識

「アシック」(Aşık)とはアラビア語に由来し、恋に落ちた者、すなわち詩人・吟遊楽士を指す。Aşık Veysel は20世紀のトルコ民俗音楽の伝説的人物で、盲目でありながら何百という歌を創作し、口頭伝承で伝えた。トルコ民族主義の盛り上がりのなかで、テュルキュは国家の文化遺産として記録・保護される対象になった。

影響・派生で結ばれたジャンル

アナトリア民俗音楽(テュルキュ)を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

アナトリア民俗音楽(テュルキュ) の系譜全体図(多段)を見る

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