ロック・メタル

パワーヴァイオレンス

Powerviolence

アメリカ合衆国 / 北米 · 1988年〜

Hardcore Punk を極限化した、テンポの急変と曲尺の極端な短さを特徴とするサブジャンル。

どんな音か

ハードコア・パンクのBPMをさらに引き上げ、1分未満の曲が数曲続いたあと突然テンポが半分以下に落ちて「スラッジ」のように重く鈍い音塊が来る——このテンポの激変が最大の特徴だ。ギターは音量を歪ませて音程の輪郭をつぶし、ベースとドラムは分離せず「塊」として聴こえる。ボーカルはスクリーミング(絶叫)のみで旋律はない。曲のタイトルだけが歌詞のすべて、という極端な短さも多い。Infestの「Slave」(1990)は30秒に満たない曲で、ギターのリフとスクリームが全情報だ。スタジオ録音でも意図的に音質を圧縮し、ライブの「紙の上で音が引き裂かれる」感触を再現する。

生まれた背景

1980年代末のカリフォルニア(ロサンゼルスとサンフランシスコ・ベイエリア)で、インフルエンシャルなハードコア・シーンから分岐した。Infest(ロサンゼルス)が1988〜90年頃に短い曲と急激なテンポ変化を組み合わせたスタイルを確立し、「パワーヴァイオレンス」という名称はサンフランシスコのSpazzが1990年代前半に使い始めたとされる。DIY(自主制作)のカセットや7インチ盤での流通が中心で、レコード会社や大型メディアとは距離を置いた。シーンの倫理的な基盤はアナーコ・パンクとハードコアが交差するところにある。

聴きどころ

Spazzの「Sweatin' to the Oldies」(1996)では、最初の高速パートがいつ終わるかわからないまま突然スローに落ちる瞬間がある——その「落差」がパワーヴァイオレンスの核心体験だ。速い部分では「何が起きているか」を把握しようとせず、塊として受け取り、スローに落ちたときに初めて音の輪郭が見えてくる、という聴き方が合っている。Infestの「Politically Incorrect」(1988)は音がさらに圧縮されており、全体が「壁から音が来る」ような感触だ。

発展

2000年代以降、Spazz/Iron Lungが系譜を継承、Mathgrindとも交差した。

出来事

  • 1990: Infest『Slave』 / 1993: Spazz結成 / 1994: 『Bllleeeeaaauuurrrrgghhh!』コンピ

派生・影響

Grindcore、Hardcore Punk、Mathcore。

音楽的特徴

楽器歪みギター、ベース、ドラム、シャウト声

リズム急激なテンポ変化、極短い曲、ブラスト

代表アーティスト

  • Infestアメリカ合衆国 · 1986年〜1996
  • Spazzアメリカ合衆国 · 1992年〜2000

代表曲

日本との関係

日本のハードコア・パンクシーン(特に東京・大阪の地下)にはパワーヴァイオレンスと直接接続するバンドが1990年代から存在する。AmputeeやBattle of Disarmsのような国内バンドが同様の短尺・テンポ急変のスタイルを展開し、海外バンドとのスプリット盤(A面とB面を別のバンドが分ける7インチ盤)を出している。Infestは日本のパンクファンの間でもカルト的な知名度がある。

初めて聴くなら

Infestの「Slave」(1990)から始め、30秒以内に何が起きるかを体験する。次にSpazzの「Sweatin' to the Oldies」(1996)でテンポの急変を確認し、最後にInfestの「Infest」(1990年のEP全体)をまとめて聴くと「ジャンルの論理」が短時間でつかめる。音量は大きめで聴くほうが音の塊の感触が伝わりやすい。

豆知識

パワーヴァイオレンスのバンド名やアルバム名には「ユーモアと暴力性の同居」という奇妙な傾向がある。Spazzの「Sweatin' to the Oldies」は1980年代のアメリカ合衆国で有名なフィットネスビデオのタイトルのパロディで、曲の内容とのギャップが意図的な笑いになっている。激しい音楽と脱力したユーモアの同居はシーンの文化的な特徴のひとつだ。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1980年代パワーヴァイオレンスパワーヴァイオレンスグラインドコアグラインドコア凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
パワーヴァイオレンスを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

アメリカ合衆国 · 1988年前後 (±25年)

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