モテット
中世末期に成立し、ルネサンス〜バロックに至るまで多様な形を取ったラテン語多声声楽の主要ジャンル。
どんな音か
生まれた背景
聴きどころ
ジョスカン・デ・プレの「Ave Maria…virgo serena」(1485年頃)では、最初に1声部が旋律を歌い始め、少し遅れて2声部目が同じ旋律で入り、さらに3、4声部と重なっていく——この「波が次々と来る」感覚をまず耳で確かめてほしい。次に、全声部がそろった瞬間の和音の「落ち着き」と、その直前の不協和な緊張感の対比に注目すると、対位法の仕掛けが見えてくる。声部同士がぶつかりそうになりながら、最後には綺麗に着地する快感だ。
発展
ジョスカン「Ave Maria…virgo serena」(c.1485)が模倣対位法の理想形を示し、パレストリーナ、ラッスス、ヴィクトリアらが各地で頂点に達した。バロック期にはシュッツ「シンフォニエ・サクレ」、バッハ「6つのモテット」のように器楽伴奏や複合唱形式へ発展した。19世紀以降はブルックナー、プーランクが新たな作曲モデルを与えた。
出来事
- 1280年頃: モンペリエ写本収録の3声モテット
- 1485年頃: ジョスカン「Ave Maria…virgo serena」
- 1572: タリス「Spem in alium」40声
- 1727: バッハ「Singet dem Herrn ein neues Lied」 BWV225
派生・影響
プロテスタント・モテット(シュッツ)、英国アンセム、近代の宗教合唱曲(ブルックナー、フォーレ、プーランク、ペルト)へ連続的に発展した。
音楽的特徴
楽器合唱(任意で通奏低音、器楽)
リズム模倣対位法、定旋律技法
代表アーティスト
- ギヨーム・デュファイ
- ジョスカン・デ・プレ
- ジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ
- オルランド・ディ・ラッソ
- ハインリヒ・シュッツ
代表曲
- Ave Maria…virgo serena — ジョスカン・デ・プレ (1485)
- O magnum mysterium (1572)
- Spem in alium (1572)
- Sicut cervus — ジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ (1581)
- Singet dem Herrn ein neues Lied BWV 225 — ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1727)
日本との関係
初めて聴くなら
ジョスカン・デ・プレ「Ave Maria…virgo serena」が最初の一歩として最適だ。4声部がゆったりとした音量で、静かな夜に耳を澄ませて聴くと声の重なりが体に入りやすい。次にパレストリーナ「Sicut cervus」(1581)を聴けば、より磨かれた滑らかさの違いが分かる。
豆知識
タリス・スコラーズが歌ったトマス・タリスの40声部モテット「Spem in alium」は、1573年頃の作品で今も演奏会で特別な扱いを受ける。半円形に配置された8グループ×5声部=40人が順番に旋律を手渡し、最後に全員が同時に歌う瞬間は、音楽の物理的な空間体験として類を見ない。CDで聴いてもその迫力は伝わるが、教会の残響の中で実演を聴くと別の体験になる。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- 古典アルス・アンティクア
- 宗教・霊歌クリスマス・キャロル
