クリスマス・キャロル
降誕節を祝うキリスト教の祝祭歌の総体。中世舞曲起源から現代ポピュラーまで広範な伝承を持つ。
どんな音か
合唱隊が、しばしば教会のアコースティックな響きの中で、ハーモニーを重ねる。メロディはシンプルで、複数の代を通じて記憶されうる形。リズムは4/4拍子が基本だが、古い曲ほど宗教的な厳粛さを保ち、現代の曲ほど親しみやすさを優先。装飾音は最小限で、むしろ歌詞の意味を明確に伝えることが重視される。オルガンやピアノの伴奏が多くの場合付き、それが時間軸を支える。
生まれた背景
中世ヨーロッパの宮廷や村の冬至祭から、キリスト教の降誕節(クリスマス)と結びついた歌。15〜16世紀にはすでにキャロル(輪舞歌)とおして定型化しており、その後数百年を通じて宗教改革、宗教戦争、工業化などを経ても基本形が保たれた。19世紀のヴィクトリア朝イギリスで『伝統的キャロル』として復興される動きが起こり、その後チャールズ・ディケンズなどの文学を通じて現代的なイメージが形成された。
聴きどころ
合唱隊の各パート(ソプラノ、アルト、テノール、バス)の音質と、その融合。単純に見えるメロディの中に隠れた複雑さ。歌詞の意味が音楽表現とどう一致しているか。オルガンやピアノの伴奏のニュアンス。大聖堂のような建築空間による音の響き。
発展
1833年ウィリアム・サンディーズ『Christmas Carols, Ancient and Modern』が古曲集成の起点となり、1880年ケンブリッジのキングス・カレッジで『Nine Lessons and Carols』礼拝が創始されて世界的雛型となった。20世紀の『Carols for Choirs』編集と国際録音産業によりレパートリーが標準化された。
出来事
- 1223: アッシジのフランチェスコ、降誕劇でキャロル文化を促進
- 1647: イングランド共和政、クリスマス祝祭・キャロル禁止
- 1833: サンディーズ古キャロル集刊行
- 1918: キングス・カレッジ『Nine Lessons and Carols』創始
派生・影響
20世紀ポピュラー・クリスマス音楽(『White Christmas』『Last Christmas』等)はキャロル文化の大衆音楽的拡張形である。
音楽的特徴
楽器声(独唱・合唱・会衆)、オルガン、各種楽器
リズム有節形式、舞曲起源の規則拍節、複数言語
代表アーティスト
- Choir of King's College, Cambridge
- The Tabernacle Choir at Temple Square
代表曲
- Hark! the Herald Angels Sing — Choir of King's College, Cambridge
- Once in Royal David's City — Choir of King's College, Cambridge
日本との関係
クリスマス・キャロルは日本でも知られ、特に『Hark! the Herald Angels Sing』『Once in Royal David's City』『Silent Night』などは、スーパーマーケットやホテルのクリスマス装飾の背景音として流されることがある。ただし、歌詞の宗教的意味を理解する日本人は限定的で、むしろ『クリスマスの雰囲気音』として消費されている傾向が強い。教会音楽として真摯に受容する層は、キリスト教信仰者や音楽学関心層に限定される。
初めて聴くなら
Choir of King's College, Cambridge『Hark! the Herald Angels Sing』。12月に、静かな部屋で聴く。ケンブリッジ大学の名門合唱隊による、透明感のある響き。より親しみやすく、かつ伝統性を感じるなら、『Once in Royal David's City』。この曲は複数世代の編曲版が存在し、比較聴きも面白い。
豆知識
『Hark! the Herald Angels Sing』の旋律は、メンデルスゾーンが『真夏の夜の夢』序曲のために作曲したテーマから引用されている。つまり、シェイクスピアの劇音楽がクリスマス・キャロルの一部になったという、西洋文化の層状構造を象徴している。『Silent Night』は1818年オーストリアで作られた比較的新しい曲だが、多くの人にとっては『古いキャロル』に感じられる。
