宗教・霊歌

受難曲

Passion

ドイツ / 中央ヨーロッパ · 1500〜1750年

聖書の受難物語を題材とする宗教音楽。プレインチャント時代から続く伝統で、バッハの「マタイ受難曲」が頂点。

どんな音か

受難曲は、キリストの受難物語を題材にした宗教音楽。福音書の朗読をもとに、語り手、登場人物、合唱、アリア、コラールが組み合わされる。単なる聖書の劇化ではなく、共同体が受難の出来事を記憶し、黙想するための音楽である。バッハの「マタイ受難曲」と「ヨハネ受難曲」が特に広く知られる。

生まれた背景

中世の聖週間の朗唱に起源を持ち、宗教改革後のルター派教会でドイツ語による受難曲が発展した。シュッツは簡素で言葉中心の様式を示し、バッハは福音書の物語、自由詩のアリア、会衆讃美歌を結びつけ、神学的にも音楽的にも巨大な構造を作った。礼拝と演奏会の境界に立つジャンルである。

聴きどころ

物語を進めるレチタティーヴォ、群衆の声として叫ぶ合唱、個人の黙想としてのアリア、会衆の祈りとしてのコラールを区別して聴くと分かりやすい。長大な作品では、すべてを一度に理解しようとせず、福音書の場面ごとに区切るとよい。合唱が突然激しくなる場面は、群衆心理の怖さも表している。

発展

シュッツの3つの受難曲(1660年代)が無伴奏様式の頂点、ハインリヒ・シュッツ後期からテレマン、グラウン、そしてバッハ「ヨハネ受難曲」(1724)「マタイ受難曲」(1727または1729)に至るオラトリオ受難曲が作曲された。19世紀後半に再発見されたバッハ「マタイ」はメンデルスゾーンによる1829年の蘇演で爆発的反響を呼び、20世紀ではペンデレツキ「ルカ受難曲」(1966)、ペルト「ヨハネ受難曲」(1982)など現代的再解釈が続く。

出来事

  • 1666年頃: シュッツ「マタイ受難曲」「ルカ受難曲」「ヨハネ受難曲」
  • 1724: バッハ「ヨハネ受難曲」初演
  • 1727または1729: バッハ「マタイ受難曲」初演
  • 1829: メンデルスゾーンによるバッハ「マタイ」蘇演

派生・影響

オラトリオ全般、近代の宗教合唱曲、ホーリー・ミニマリズムの宗教合唱(ペルト、グレツキ)に直接影響を与えた。

音楽的特徴

楽器独唱、合唱、管弦楽、オルガン

リズムレチタティーヴォ+アリア+コラール

代表アーティスト

  • ハインリヒ・シュッツドイツ · 1610年〜1672
  • ヨハン・ゼバスティアン・バッハドイツ · 1703年〜1750

代表曲

日本との関係

日本ではキリスト教徒に限らず、バッハの受難曲がクラシック音楽の大作として深く聴かれている。合唱団、古楽団体、大学の演奏会で取り上げられ、復活祭前の時期に演奏されることもある。日本語字幕や対訳を読みながら聴くと、音楽と神学的な言葉の結びつきが理解しやすい。

初めて聴くなら

入口は「マタイ受難曲 BWV 244 — ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1727)」の冒頭合唱と終曲。全曲は長いので、まず構えの大きさと悲しみの響きを聴くとよい。緊迫した劇性を求めるなら「ヨハネ受難曲 BWV 245 (1724)」、言葉中心の古い様式ならシュッツの受難曲がよい。

豆知識

受難曲では、聴衆は物語の外側にいる観客であると同時に、コラールを通じて共同体の一員として出来事に向き合う。バッハ作品で親しまれるコラール旋律は、当時の会衆にとって信仰の記憶を呼び起こすものだった。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1220年代1500年代1620年代受難曲受難曲モテットモテットオラトリオオラトリオ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
受難曲を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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ドイツ · 1500年前後 (±25年)

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