ノートルダム楽派
12世紀後半〜13世紀のパリ、ノートルダム大聖堂を中心に活動した多声音楽の楽派。
どんな音か
生まれた背景
パリ大学や大聖堂文化が発展した時代に、典礼音楽の壮麗化と記譜法の進歩が重なった。レオニヌスの「Magnus Liber Organi」は大規模なオルガヌム集として知られ、ペロタンは3声、4声の作品で多声の響きをさらに拡大した。石造大聖堂の残響も、この音楽のゆったりした時間感覚と深く関わる。
聴きどころ
下の声が聖歌を非常に長く伸ばし、上の声がその上を細かく動く構造を聴く。現代の和声進行とは違い、音が大聖堂の空間に積み上がる感覚が大事である。ペロタンの4声作品では、同じ響きが反復されながら少しずつ変わり、荘厳な静止と運動が同時に生まれる。
発展
1170年頃のレオニヌスは「マグヌス・リベル・オルガニ」で典礼暦を通じた2声オルガヌムを編纂し、後継のペロタンが3声・4声化と新しい長大なディスカントゥス様式を確立した。リズム・モード(6種の定型リズム)の体系化により、対位法的書法と精緻なリズム構築が可能になった。フランコ・フォン・ケルンの計量記譜論が後を継ぎ、アルス・アンティクアからアルス・ノヴァへの橋渡しとなった。
出来事
- 1163: パリ・ノートルダム大聖堂着工
- 1170年頃: レオニヌス「マグヌス・リベル・オルガニ」
- 1198: ペロタン「Viderunt omnes」4声
- 1230年頃: フランコ・フォン・ケルン、計量記譜法理論
派生・影響
ノートルダム楽派の革新は、その後のモテット、アルス・アンティクア、アルス・ノヴァを経て、ルネサンス・ポリフォニーまで続く対位法伝統の出発点となった。20世紀の作曲家(メシアン、ペルト、坂本龍一)も中世多声の透明な響きから多くを汲んだ。
音楽的特徴
楽器男声合唱
リズムリズム・モード、3声・4声の対位
代表アーティスト
- レオニヌス
- ペロタン
代表曲
- Beata viscera — ペロタン (1200)
- Magnus Liber Organi — レオニヌス (1175)
- Viderunt omnes (4声) — ペロタン (1198)
- Sederunt principes — ペロタン (1199)
日本との関係
初めて聴くなら
入口は「Viderunt omnes (4声) — ペロタン (1198)」。長い響きと多声の荘厳さが一度に分かる。続けて「Sederunt principes — ペロタン (1199)」でさらに大きな構築を、「Magnus Liber Organi — レオニヌス (1175)」で古いオルガヌムの流れを聴くとよい。
豆知識
ノートルダム楽派の音楽は、紙の上の作曲技術だけでなく、大聖堂の響きを前提にしている。長い残響の中では速い変化より、持続する音とゆっくりした重なりが力を持つ。建築が音楽の時間を作っていたとも言える。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- 古典トルヴェール
