伝統・民族

モーラム

Mor Lam

東北イサーン地方 / タイ / 東南アジア · 1500年〜

タイ東北部・ラオスの民間語り物・歌謡音楽。

どんな音か

モーラム(หมอลำ)はタイ東北部イサーン地方とラオスにまたがる伝統的な語り歌で、ケーン(แคน、ラオス系の竹笙)の連続音をバックに、歌い手が即興で韻文を口走り続ける芸能だ。BPMは速い演目で140を超え、ケーンの「ブーン」と鳴り続けるドローン音、ピン(古典的な3弦リュート)、太鼓のシャッフルが土台を作る。歌い手の声は鼻にかかった高音で、息継ぎなしで韻を踏み続ける口数の多さが命だ。最近のモーラム・シンは電子化が進み、シンセベースとEDMキックの上で伝統的なケーンが鳴る、サイケな質感の音楽になっている。

生まれた背景

イサーン地方は人口約2200万、タイの中でも経済的に立ち遅れた地域で、住民の多くはラオ系の言葉(イサーン語/ラオ語)を母語とする。モーラムは元来、村の祭礼で僧侶や年長者が仏教説話や恋愛物語を即興で語る娯楽だった。1970〜80年代、出稼ぎでバンコクに出たイサーン人がモーラムを電化したバンド形態に発展させ、これがモーラム・シン(หมอลำซิ่ง、「走るモーラム」の意)と呼ばれる現代形になる。タイ中央政府がバンコク標準語と中部文化を「正統」とみなしてきた歴史のなかで、モーラムはイサーンの誇りそのものとして機能してきた。

聴きどころ

まずケーンの音色に耳を慣らしてほしい。竹の管を束ねた笙で、和音とドローンを同時に鳴らせる楽器だ。この「ブーン」というドローンが曲全体の基音になり、その上で歌い手とピンがメロディを動かす構造になっている。歌い手の発声は地声を高く張り、ラオ語特有の鼻母音を強調するため、日本人の耳には「タイ語っぽくない」と感じるはずだ。即興性が命なので、ライブ録音と歌詞カードを並べると、毎回違うことを歌っているのが分かる。現代モーラム・シンではEDMの4つ打ちと伝統的なケーンが同居する瞬間があり、その「シャーマン的トランス感」がモーラム独特の体感だ。

発展

1970年代以降、エレクトリック楽器を取り入れたモーラム・シン(ヤング・モーラム)が誕生し、ジンタラ・プン・ティアプ・チャイヤパクなどスター歌手を輩出した。1990〜2000年代には政治社会的内容を持つ反体制ソングとしても機能した。

出来事

  • 古代: ラオ族語り物として成立。
  • 1969年: タイの東北イサーン地方で都市流行。
  • 1980年代: 電化モーラム・ブーム。
  • 2000年: モーラム反体制歌の社会的影響。
  • 2014年: スーミ・ヘミングウェイによる海外コンピレーション。

派生・影響

タイの大衆音楽ルーク・トゥンとの相互影響、世界音楽市場での「タイ・モーラム・コンピレーション」リバイバル、現代タイ・インディー・ポップへの引用源となる。

音楽的特徴

楽器ケーン(笙)、ピン(三弦)、ポン・ラン(木琴)、太鼓、エレキ楽器

リズムラオ・モーラム特有の節、即興問答、4/4の踊り拍

代表アーティスト

  • Pornsak Songsaengタイ · 1977年〜2013

代表曲

日本との関係

日本での認知はワールドミュージック愛好家の小さな円のなかに留まるが、Soi 48(東京拠点のタイ音楽専門レーベル/DJユニット)が2010年代以降、モーラム・シンのコンピや来日公演を仕掛けたことで、フジロックや恵比寿リキッドルーム周辺で一定の認知を得た。電子的なモーラムはサイケデリックやテクノのDJに親和性が高く、日本のクラブシーンの一部で「東南アジアのトランス音楽」として再評価された。坂本龍一が晩年にイサーン音楽に関心を寄せていたことが知られている。

初めて聴くなら

まずはCompilationから入るのが安全で、『The Sound of Siam』シリーズ(Soundway Records)のVol.1〜2にモーラムの古典が収録されている。現代モーラム・シンの体感を取りに行くならRasmee Wayrana『Isan Soul』、伝統的なモーラムの節回しをジャズとの融合で再構築した21世紀型の傑作だ。クラブで踊りたいならSoi 48編集のモーラム・コンピを推す。深夜の最初の一杯と相性がいい。

豆知識

「หมอลำ(モーラム)」の「หมอ(モー)」は専門家、「ลำ(ラム)」は韻文の即興、つまり「即興詩の専門家」という意味だ。ラオスでも同じ芸能が「ラム(ลำ)」として存続しており、両国にまたがる文化圏になっている。モーラムの歌い手は伝統的に男女ペアで掛け合いを演じることが多く、これは『万葉集』の歌垣に近い形式だ。電子化されたモーラム・シンは1990年代にカセットテープ文化と結びついて爆発的に広がり、いまでもイサーン地方の長距離バスや屋台で大音量で流れている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1500年代1940年代1950年代1970年代モーラムモーラムフォークフォークルークトゥンルークトゥンプレーン・プア・チウィットプレーン・プア・チウィット凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
モーラムを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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タイ · 1500年前後 (±25年)

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