古典

ピーパート

Piphat

バンコク / タイ / 東南アジア · 1500年〜

タイ古典宮廷・寺院音楽の中核をなすアンサンブルで、ロケット型二重管楽器(パイ)が旋律を導き、銅製の音程ゴング群が和声的役割を担う。

どんな音か

ピーパートの音響は輝度が高く、東南アジアの日中の陽光と一体化する。パイ(シャウム的二重管楽器)が高く鋭く吹き鳴らされ、その音が耳をつんざく。その下で、複数の音高を持つ銅ゴング(モン)が静かに隆起し、全体が『ボーン』と鳴り響く。打楽器はカウンター・ベース的な役割で登場し、微妙なリズムの遅延が、トランス的なブルージング感を生む。テンポはモデレートから速いものまであるが、楽器群は決して激しくならず、節度を持った音の配置を保ち続ける。

生まれた背景

ピーパートはスコータイ王朝(1238〜1438年)の宮廷で、クメール文化の音楽体系から発展した可能性が高い。アユッタヤ朝を経て、現在のラッタナコーシン朝でも宮廷儀式や仏教寺院の行事で演奏され続けている。20世紀には王妃の誕生日や国家的祝日の音楽として正式化され、タイ伝統芸術学院で教育が制度化された。

聴きどころ

パイの入ぶくみ。最初は弦楽や打楽器の準備の音が聞こえ、その後に高くシャープなパイの声が割り込み、全体が一気に統制される瞬間を待つ。モン・ゴング群の『ボーン』という低い音がいかに複雑な倍音を含んでいるか。楽器群の音の『ズレ』が、東南アジア的な時間感覚をどう表現しているか。

発展

20世紀にラーマ7世(在位1925–1935)の音楽政策で楽譜化と教育体系化が進み、シーラパコン大学・チュラーロンコーン大学に音楽学科が設けられた。現代はタイ宮廷文化の中核として保存される。

出来事

  • アユタヤ朝期: 体系化。
  • 1782年: ラタナコシン朝で現代編成確立。
  • 1932年: 立憲君主制で音楽政策再編。
  • 1971年: シーラパコン大学音楽学科設置。
  • 2000年代: ピーパート国際公演。

派生・影響

タイ古典舞踊コーン・ラコーン・モハリの音楽的基盤、東南アジア青銅打楽器文化(クメール・ピンプアット、ラオ・サィン、ミャンマー・サインワイン)群との比較対象。

音楽的特徴

楽器ラナート・エーク、ラナート・トゥム、コン・ウォング、ピー・ナイ、タポーン、チン

リズムコン・ウォングの主旋律、ラナートの装飾、タポーンの拍導き

代表曲

日本との関係

ピーパート音楽は日本の民族音楽学や舞踊研究に若干の記録があるが、一般的な認知度は低い。タイ古典舞踊に関心のある愛好者が部分的に接する程度。大衆文化やメディアでの言及はない。

初めて聴くなら

『Khaek Mon Bang Khun Phrom』(古典行進曲)。寺院の祝日パレードで演奏される格調高い曲で、ピーパート・アンサンブルの威厳が最も表れている。朝方の澄んだ空気の中で聴くことを推奨。

豆知識

パイの音は瞑想状態を誘発する周波数帯であると指摘する研究もあり、タイ仏教儀式の効果と楽器選択の関係が学術的に論じられている。ピーパートの演奏は楽器の扱いが非常に難しく、マスターまでに数十年の修行期間を要するとされている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図900年代1100年代1500年代ピーパートピーパートピンプアットピンプアットサインワインサインワイン凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ピーパートを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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タイ · 1500年前後 (±25年)

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