ポップ

ルークトゥン

Luk Thung

タイ / 東南アジア · 1952年〜

20世紀半ばのタイで成立した、農村文化を題材とするタイ大衆歌謡。

どんな音か

ルークトゥン(ลูกทุ่ง、「田舎の子」の意)はタイの大衆歌謡で、農村の労働と恋情を題材にした演歌的なポップだ。BPM80〜110のミドルテンポが基本で、サキソフォンや電子オルガンを軸にしたバンド編成に、ビブラートを深くかけた声をのせる。歌い手は地声を強く張り、語尾を「コブシ」のように細かく揺らす歌唱法が特徴で、タイ語の声調の上下とコブシが分かちがたく結びついている。録音は2000年代以降もあえてリバーブを深くかけ、ステージ歌謡的な箱鳴り感を残す傾向が強い。

生まれた背景

1950〜60年代、タイの農村部から都市部バンコクへの出稼ぎ労働者が増えるなかで、彼らの郷愁と恋愛を歌う歌が大ヒットしたのが原型だ。タイ中部の伝統音楽と、戦後タイに流入した西洋ポップス(ラテン、カントリー、ラジオ歌謡)が雑種交配して生まれた。Surapol Sombatcharoen(1930〜68)が初期のスターで、彼の死後、田植えと出稼ぎの記憶を抱えるイサーン地方出身のPumpuang Duangjan(1961〜92)が80年代に「電子ルークトゥン」を完成させ、国民的歌姫になった。彼女は31歳で病没し、その葬儀には王族と数十万の民衆が集まった。ルークトゥンタイの戦後史そのものを抱えた音楽だ。

聴きどころ

コブシの揺らし方にまず耳を澄ませてほしい。日本演歌と似ているが、タイ語声調の制約から、上昇下降の幅が演歌より大きい。Pumpuang Duangjanの声は鼻にかかった甘さと農村的な太さが同居していて、その二重性がルークトゥンの核心だ。バンドの方は、サキソフォンが主旋律を補強する瞬間と、ファンキーな電子オルガンがリズムを刻む瞬間の対比がポイント。Takkatan Cholladaのような現代の歌い手はEDM要素を取り入れているが、基本のコブシは守っている。

代表アーティスト

  • Suraphol Sombatcharoenタイ · 1952年〜1968
  • Yodrak Salakjaiタイ · 1963年〜2008
  • Pumpuang Duangjanタイ · 1976年〜1992

代表曲

日本との関係

ルークトゥンタイ演歌と日本語で紹介されることが多く、構造的にも日本演歌と非常によく似ている。1960〜70年代、五木ひろし的な歌謡曲タイにラジオで流入し、ルークトゥンの編曲に影響を残した記録がある。日本ではタイ料理店のBGMで耳にする機会がある程度だが、ワールドミュージックのコンピレーション(Soi 48周辺のレーベル)で日本盤コンピが組まれており、好事家の間では知名度が上がっている。

初めて聴くなら

まずPumpuang Duangjan『สาวนาสั่งแฟน(田んぼの娘、彼氏に告げる)』。電子オルガンとサックスの上で彼女の声がコブシを効かせる、80年代電子ルークトゥンの完成形だ。現代音にしたいならTakkatan Chollada『คนบ้านเดียวกัน(同じ村の人)』、EDM要素が入った21世紀ルークトゥンの入門に良い。タイ料理店で耳にしたあの感じ、を辿るなら昼間の作業BGMとして流すのが向いている。

豆知識

Pumpuang Duangjanは生前から「タイの美空ひばり」と呼ばれることがあった。31歳でループスで亡くなったあと、彼女の生家近くに記念寺院が建ち、いまも参拝者が絶えない。「ลูกทุ่ง(ルークトゥン)」という言葉自体は「田畑の子」を意味し、対義語の「ลูกกรุง(ルークルン、都の子)」がバンコク的な都市歌謡を指す。この二項対立は1960年代のタイのラジオ放送が作った分類で、戦後タイの階層意識を音楽用語に焼き付けたものだ。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1500年代1900年代1920年代1950年代ルークトゥンルークトゥンモーラムモーラム演歌演歌カントリーカントリーバングラバングラ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ルークトゥンを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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タイ · 1952年前後 (±25年)

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