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伝統・民族

モダニスト・オペラ

Modernist Opera

ベルリン / ロンドン / ケルン / ザルツブルク / ニューヨーク / オーストリア / ドイツ / イギリス / アメリカ / フィンランド / 西欧 · 1925年〜

別名: 20th-Century Opera / Modern Opera / Contemporary Opera / 現代オペラ / 20世紀オペラ

20世紀以降のオペラハウスが前衛作曲語法を上演し続けた制度的な受け皿。Berg《ヴォツェック》(1925)からSaariaho《Innocence》(2018)まで、大劇場が無調・十二音・音響作曲・ポスト・スペクトルを定期会員向け上演で消化してきた。

どんな音か

モダニスト・オペラの音を初めて聴くと、多くの人は『これは本当にオペラなのか』と迷うだろう。それは正しい迷いで、実際、20世紀のオペラハウスは、Verdi・Puccini・Wagner の18-19世紀の枠組みを保ちつつ、その内側に無調・十二音・音響作曲・ポスト・スペクトルなどの前衛技法を吸収し続けた特殊な制度なのだ。Berg《ヴォツェック》(1925 Berlin 初演)を聴くと、伝統的なオペラの『幕』『場面』『アリア』『レチタティーヴォ』の枠組みが残されつつ、音楽自体は Schoenberg 派の無調で書かれている。この二重構造がモダニスト・オペラの本質で、以降 Britten《Peter グライムs》(1945)、Zimmermann《Die Soldaten》(1965、12群の空間分散管弦楽)、Ligeti《Le Grand Macabre》(1978、ブラック・コメディ)、Stockhausen《Licht》連作7部作(1977-2003)、Adams《Nixon in 中国》(1987)・《Doctor Atomic》(2005)、Saariaho《L'Amour de loin》(2000)・《Innocence》(2018)、Adès《The Tempest》(2004)へと連なる100年の系譜が積み重なっている。

生まれた背景

決定的な起点は1925年12月14日、Erich Kleiber 指揮の Berlin 国立歌劇場での Berg《ヴォツェック》初演で、これがモダニスト・オペラハウス制度が初めて『無調(atonality)』を主要レパートリーとして上演するに至った瞬間だった。それ以前にも Strauss《エレクトラ》(1909)や《サロメ》(1905)は後期ロマン主義の極限まで達していたが、Berg は Schoenberg 派の完全無調を大劇場に持ち込んだ最初の作品だった。1937年 Berg《ルル》Zürich 遺作初演(Berg 自身は1935年12月に敗血症で急逝)、1945年 Britten《Peter グライムs》Sadler's Wells 初演で英語オペラの実質的な復活、1965年 Zimmermann《Die Soldaten》Köln 初演で空間音楽・多層時間軸のオペラへの導入、1978年 Ligeti《Le Grand Macabre》Stockholm 初演でパロディ的な引用主義、1987年 Adams《Nixon in 中国》Houston 初演で政治的『CNN-Opera』サブジャンルが確立された。制度基盤は西ドイツの市立劇場ネットワーク(戦後の Kunstsubvention 政策)、イギリスのグラインドボーン音楽祭(1934-)、アメリカ合衆国のヒューストン・グランド・オペラ(1955-)・サンフランシスコ・オペラ(1923-)、そして2000年代以降はザルツブルク音楽祭・エクサンプロヴァンス音楽祭が主要な委嘱制度となった。

聴きどころ

第一に、伝統的なアリア/レチタティーヴォ形式の維持または解体に注意。Berg《ヴォツェック》は音楽的には完全無調だが、各楽章がフーガ・パッサカリア・組曲などの古典形式を保つ二重構造がある。第二に、劇的な声楽書法。Sprechstimme(語り歌)は Schoenberg《月に憑かれたピエロ》(1912)以降のドラマティックな声楽技法として、Berg・Ligeti・Adès などが継承した。第三に、空間音楽としてのオペラ。Zimmermann《Die Soldaten》は12群の管弦楽が舞台上・オーケストラピット・劇場の各所に配置される。Stockhausen《Licht》はホリコプター四重奏団(《水曜日》)を含む。第四に、政治的トピックの取り扱い。Adams《Nixon in 中国》(1987)・《Doctor Atomic》(2005)、Saariaho《Adriana Mater》(2006、バルカン紛争戦時強姦)は同時代の政治事件をリアルタイムで扱う。

発展

1970年代以降、György Ligeti《Le Grand Macabre》(1978 Stockholm 初演)がブレイク・カルドリー、Sadler's Wells 初演の Britten 系列を越えるブラック・コメディ・オペラを提示、以降 Karlheinz Stockhausen が《Licht》連作7部作(1977-2003、各巻ごとに Donnerstag《木曜日》/ Samstag《土曜日》/ Montag《月曜日》/ Dienstag《火曜日》/ Freitag《金曜日》/ Mittwoch《水曜日》/ Sonntag《日曜日》として2003年完結)、Adams が《Nixon in China》(1987 Houston 初演)を皮切りに《The Death of Klinghoffer》(1991)・《Doctor Atomic》(2005 San Francisco 初演)の政治的『CNN-Opera』サブジャンルを開拓、Kaija Saariaho が Amin Maalouf 脚本による《L'Amour de loin》(2000 Salzburg 初演)、《Adriana Mater》(2006 Paris)、《Innocence》(2018 Aix 初演、遺作)でスペクトル系オペラを完成、Thomas Adès が《Powder Her Face》(1995)・《The Tempest》(2004 Covent Garden 初演)・《The Exterminating Angel》(2016 Salzburg 初演)で21世紀オペラの英国系代表となった。

出来事

  • 1925: Berg《ヴォツェック》 Berlin 初演
  • 1937: Berg《ルル》 Zürich 遺作初演
  • 1945: Britten《Peter Grimes》 Sadler's Wells 初演
  • 1965: Zimmermann《Die Soldaten》 Köln 初演
  • 1977-2003: Stockhausen《Licht》連作7部作
  • 1978: Ligeti《Le Grand Macabre》 Stockholm 初演
  • 1987: Adams《Nixon in China》 Houston 初演
  • 2000: Saariaho《L'Amour de loin》 Salzburg 初演
  • 2004: Adès《The Tempest》 Covent Garden 初演
  • 2005: Adams《Doctor Atomic》 San Francisco 初演
  • 2018: Saariaho《Innocence》 Aix 初演

派生・影響

musical-expressionism / atonality / twelve-tone(Berg期)、total-serialism(初期 Stockhausen)、post-minimalism(Adams)、post-spectral(Saariaho)などの技法を、オペラ制度が受け皿として引き取ってきた。opera(古典・ロマン期のオペラ)の直系の20世紀変種で、opera-seria / verismo / wagnerian-music-drama の兄弟。

音楽的特徴

楽器大編成管弦楽、独唱者、合唱、しばしば拡張的な打楽器群と電子音、時にライブ・エレクトロニクス、Sprechstimme、時に非西洋楽器

リズム後期ロマン主義のrubatoから、総音列期の複合拍節、シュトックハウゼン《グルッペン》型の複数テンポ並行、アダムズ型のポスト・ミニマリズム反復拍節、サーリアホ型のスペクトル的な時間の伸縮まで幅広く許容する。

代表アーティスト

  • ベンジャミン・ブリテン (Benjamin Britten)イギリス · 1930年〜1976
  • ベルント・アロイス・ツィンマーマン (Bernd Alois Zimmermann)ドイツ · 1946年〜1970
  • トマス・アデス (Thomas Adès)イギリス · 1993年〜

代表曲

  • Die Soldatenベルント・アロイス・ツィンマーマン (Bernd Alois Zimmermann) (1965)
  • Donnerstag aus Lichtカールハインツ・シュトックハウゼン (1981)
  • Doctor Atomicジョン・アダムス (2005)
  • Peter Grimesベンジャミン・ブリテン (Benjamin Britten) (1945)
  • The Turn of the Screwベンジャミン・ブリテン (Benjamin Britten) (1954)
  • Death in Veniceベンジャミン・ブリテン (Benjamin Britten) (1973)
  • Le Grand Macabreジェルジ・リゲティ (1978)

その後の代表曲

  • Adriana Materカイヤ・サーリアホ (2006)
  • The Tempestトマス・アデス (Thomas Adès) (2004)
  • The Exterminating Angelトマス・アデス (Thomas Adès) (2016)
  • Innocenceカイヤ・サーリアホ (2018)

日本との関係

モダニスト・オペラの日本受容は1960年代の Berg《ヴォツェック》N響上演(小澤征爾指揮)から始まる。1970年大阪万博では Xenakis《ペルセポリス》を含む前衛作品が数多く上演され、日本の一般聴衆にモダニスト・オペラ書法への窓口が開かれた。1980年代以降、二期会・新国立劇場(1997開設)・東京二期会などが Berg《ルル》・Britten《ピーター・グライムズ》・Strauss《エレクトラ》を定期的に上演、2000年代以降は日本人作曲家(細川俊夫、藤倉大)による国際モダニスト・オペラ路線の作品も生まれた。細川俊夫《班女》(2004 Aix 初演)、《海、静かな海》(2016 Hamburg 初演)、藤倉大《夜半浦嶋》(2013 東京)は日本発モダニスト・オペラの代表作。ブリテン《War Requiem》はNHK交響楽団が定期的に演奏する20世紀レパートリーの中心作。Adams《Nixon in 中国》(1987)は2011年に東京文化会館で上演された。

初めて聴くなら

まず Berg《ヴォツェック》(1925)から。Kleiber 指揮ウィーン国立歌劇場の CD 版(Behrens ソプラノ)、あるいはより現代的な Sinopoli 指揮ドレスデン・シュターツカペレ版がスタンダード。次に Britten《Peter グライムs》(1945)を Colin Davis 指揮 Royal Opera ハウス 版で。深く入るなら Ligeti《Le Grand Macabre》(1978、Salonen 指揮 Philharmonia の DVD 版)、Adams《Doctor Atomic》(2005、Adams 自身指揮 オランダ Opera の DVD 版)、Saariaho《L'Amour de loin》(2000、Salonen 指揮 Rotterdam Phil の CD 版)。日本発は細川俊夫《班女》(Salzburg / Nagano 版の CD)。

豆知識

Berg は《ヴォツェック》のパトロン Alma Mahler(Gustav Mahler の未亡人)に献呈したが、彼女は初演を聞いてから作品を『理解できない』と述べ、Berg との関係は冷却した。もう一つ:Zimmermann《Die Soldaten》(1965)は5年間 Köln オペラ座で『演奏不可能』と拒絶され続け、Zimmermann は妥協版を作曲、それが1965年上演版となった。彼はこの経験のトラウマもあり1970年8月自殺した。享年52。もう一つ:Adams《Doctor Atomic》(2005)の第1幕最終場面『Batter my heart, three-person'd God』(John Donne 詩)は、実際に Oppenheimer が Trinity 核実験の前夜に暗唱していたと Adams が語る詩篇で、Oppenheimer 役のバリトンが単独で歌う長大なアリアとして、Adams のオペラの中でも最も感動的な瞬間の一つに数えられる。