伝統・民族

ギッダー

Giddha

パンジャーブ州 / インド / 南アジア · 1700年〜

パンジャーブ州の女性集団民俗舞踊歌。

どんな音か

ギッダーは女性たちが輪になって歌いながら踊るパンジャーブの民俗歌舞で、男性のバングラーに対応する女性版と説明されることが多い。しかしバングラーより動きは小さく、歌の即興性と言葉遊びが中心だ。「ボリヤーン(Boliyan)」と呼ばれる二行詩を掛け合うスタイルが特徴で、ひとりが上句を歌えば他のひとりが下句で返す。テンポはゆったりしたものから速いものまでさまざまで、ドーラク太鼓が伴奏する。声は生地声で裏声を使わず、言葉の発音を崩さずに歌う。衣装のサルワール・カミーズや鮮やかな色が視覚的に賑やかで、音と一体になってギッダーの場を作る。

生まれた背景

ギッダーの起源は不明確だが、パンジャーブの農村社会における女性の集会の場——収穫祭、結婚式の前夜祭、祭日——で自然発生的に育まれたとされる。男性の目から隔離された「女性だけの空間」で、普段の生活では言いにくいことを歌の形で笑いながら伝える機能を持っていた。ボリヤーンの歌詞は義母への皮肉、夫への不満、故郷への郷愁が頻繁に登場し、社会的圧力のはけ口としての側面も指摘される。インド・パキスタン分離(1947年)後にパンジャーブが分断されて以降、両国でそれぞれの形で継承されている。

聴きどころ

ボリヤーンの「掛け合い」のリズムを追うと、言葉のアクセントがドーラクのビートとどう合っているかが見えてくる。笑い声や合いの手が録音に入っているものは、演奏と聴衆の一体感がリアルに伝わる。歌詞を解釈するにはパンジャーブ語の理解が必要だが、言葉が分からなくても掛け合いの「間(ま)」とテンポの変化を感じるだけでギッダーの性質は伝わる。

発展

20世紀後半にパンジャーブ大学などの民俗芸能調査で再認識され、舞台化が進んだ。1970年代以降はパンジャーブ・ディアスポラ(英国・カナダ)で婚礼・新年祭の必須芸能となり、海外でも盛んに踊られている。

出来事

  • 古代: 農村女性踊り歌として成立。
  • 1970年代: 大学舞台化と海外移住。
  • 1990年代: 英国・カナダのパンジャーブ・コミュニティ定着。
  • 2000年代: ボリウッド映画でのギッダー描写。
  • 2015年: パンジャーブ州文化政策での保存指定。

派生・影響

現代パンジャーブ・ポップ・ディアスポラ・ダンス文化、女性のフォーク表現としての位置づけ。

音楽的特徴

楽器ドール(時に)、手拍子、足拍子、声

リズムボーリヤン(短詞章)の交替、手拍子の鋭いリズム、円形踊り

代表曲

日本との関係

日本ギッダーはほぼ知られておらず、パンジャーブ音楽全体でもバングラーダンスが唯一認知されている程度だ。南アジア音楽研究の文脈か、インド民俗舞踊を学ぶスタジオ関係者の間でのみ言及される。

初めて聴くなら

「Boliyan Sangeet」系の音源(ユーチューブに複数の伝統演奏版がある)を聴いてみるといい。結婚式の前夜祭(マイヤン)の録音はライブ感があって、ギッダーが「場の音楽」であることが感じ取れる。インドの映画音楽(Punjabi film songs)に入ったギッダー風の曲も多いので、それを入口にするのも選択肢だ。

豆知識

ギッダーのボリヤーンは口承で伝わるため、歌い手によって歌詞がリアルタイムで変えられる。「今日の義母はどんな人か」「花嫁の気持ちは」といったその場の状況に合わせて即興で言葉をはめていくスタイルが今も生きており、楽譜を持たない音楽の柔軟さが体現されている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1700年代1950年代ギッダーギッダーバングラバングラ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ギッダーを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

インド · 1700年前後 (±25年)

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