古典

トゥムリー

Thumri

ラクナウ / インド / 南アジア · 1850年〜

別名: Thumri Semi-Classical

ヒンドゥスターニー準古典声楽。恋愛と感情表現を主題とする。

どんな音か

インド古典声楽の準古典形式で、ヒンドゥスターニー音楽の体系に基づきながら、ラーガによる即興と、恋愛詩による感情表現が中心。テンポは中庸から速く、各句で微妙な音程変化(シュルティ)を含むメロディが展開される。ボーカルは、パッションを伴いながらも、音程の正確性を失わない。伴奏楽器(ハルモニウム、ターブラ、サロード等)は、ボーカルの時間軸に合わせて応答する。歌詞は、主に愛の苦しみ・喜び・相手への思いを詩的に表現。

生まれた背景

19世紀のインド北部(特にウッタル・プラデーシュ州)で、アマラパリ等の有名歌手による演奏実践を通じて確立。古典的なラーガ・体系をベースとしながら、より直感的・感情的な表現を許容する形式として発展。20世紀前半から中盤は、インド映画(ボリウッド)の歌唱形式として大衆化。一方、古典音楽の流派(khyal等)との比較において、『準古典』『軽い』と見なされることもあり、格式上は複雑な位置づけ。

聴きどころ

ギリジャー・デーヴィーの『Babul Mora』では、母の家を離れて嫁ぐ若い女性の複雑な感情(喜びと悲しみ)が、声の張り方と音程の微妙な変化で表現される。ラーガ・カーヒ・ジョール・バイライヤという特定のラーガの選択は、この感情的テーマにぴったり合致している。ベーガム・アクターの格調高い歌唱と比較すると、thumriの『より個人的な』側面が明らかになる。

発展

20世紀には西ドゥルガーバーイー・パルワール・ガウハール・ジャーン・シッディーシュワリー・デーヴィー・ギリジャー・デーヴィー・ショーバー・グルトゥらの女性歌手が大成功を収めた。映画歌(ボリウッド)にもトゥムリー風が頻繁に取り入れられる。

出来事

  • 1850年代: ワジド・アリー・シャー宮廷でのトゥムリー大成。
  • 1902年: ガウハール・ジャーン世界初インド古典録音。
  • 1965年: シッディーシュワリー・デーヴィーがパドマ・ブシャン受章。
  • 1972年: 映画『パーキーザ』。
  • 1998年: ギリジャー・デーヴィー死去で時代の終焉(2017年)。

派生・影響

ガザル・ホリー・カージリー・ダードラなどの準古典声楽との連続性を持ち、ボリウッド古典歌(『パーキーザ』『ウムラオ・ジャーン』)の基盤となった。

音楽的特徴

楽器声、ターンプラ、タブラ、ハルモニウム、サーランギー

リズムディープチャンディー(14拍)・ジャト(16拍)・ケヘルワー(8拍)、感情(バーヴァ)優先のラーガ展開

代表アーティスト

  • ベーガム・アクタルインド · 1929年〜1974
  • ギリジャー・デーヴィーインド · 1949年〜2017
  • ショーバー・グルトゥインド · 1956年〜2004

代表曲

日本との関係

日本ではインド古典音楽への一般的認知度が限定的であり、thumriはさらに知られていない。ヨガ・瞑想ブームとともに、インド音楽への関心は増加しているが、主にシタール・サーランギなどの楽器音楽にとどまり、声楽形式としてのthumriは理解されていない。

初めて聴くなら

ギリジャー・デーヴィーの『Babul Mora』。1980年代の録音で、技術的に明瞭。恋愛詩と古典音楽の融合が感じられやすい。その後、ショーバー・グルトゥなど別の演奏家で、個人差を経験する。夕方の静かな時間に、リラックス状態で聴くことを勧める。

豆知識

thumriと古典形式khyalの違いについては、音楽学者の間でも議論がある。一般的には『thumriはより感情的、khyalはより理性的』と言われるが、実際には優れたthumri演奏者は高度な古典技法を使用する。20世紀後半から現代まで、thumriは映画音楽に押され、舞台での演奏機会が減少している。

影響・派生で結ばれたジャンル

トゥムリーを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

インド · 1850年前後 (±25年)

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