伝統・民族

バウル

Baul

西ベンガル州ビールブーム / インド / 南アジア · 1700年〜

別名: バウル歌

ベンガルの放浪神秘主義者が歌う、内なる神を求める歌。

どんな音か

バウルの音楽は楽器の音と声が分離しているのではなく、歌い手が自分で楽器を演奏しながら歌う形が基本だ。エクタラ(一弦の竹製擦弦楽器または撥弦楽器)が単音の持続音を出し続け、その上に声が自由に揺れる。ドタラ(複弦の撥弦楽器)が複音を加え、ドゥゴー(小型の片面太鼓)が腰に結ばれて歩きながら叩かれる。声は細く引き延ばされ、音階の間を滑るような動きをする。「グル(神や師)への呼びかけ」というより、話しかけるような私的な質感がある。聴いていると、孤独な放浪者が夜道で独り言のように歌っている光景が浮かぶ。

生まれた背景

バウルはベンガル地方(現在のインド西ベンガル州とバングラデシュ)の放浪神秘主義者で、ヒンドゥー教のバクティ(信愛)思想とスーフィズム(イスラム神秘主義)が混合した信仰を持つ。「バウル」という言葉の語源にはサンスクリット語の「バータウラ(風に吹かれた者)」という説がある(諸説あり)。社会的規範や宗教的権威から外れた生き方を選び、家を持たず村から村へ移動しながら歌う。ラロン・シャーは19世紀のバウルの巨人で、彼の歌はバングラデシュで今もポップスにカバーされ続けている。ノーベル賞作家タゴールはバウルの音楽と詩から強い影響を受けたとされている。

聴きどころ

プールナ・ダース・バウルの「Khoda Tomare Khujechhi」(1968年)を聴くなら、エクタラの単音がどこまでも続く様子に耳を傾ける。その上で声がどのくらい自由に動けるかを確認する——西洋音楽的な「決まった音程に乗せて歌う」というより、音程の間を行き来する感覚がある。歌詞はベンガル語で書かれた神学的・哲学的内容だが、声そのものの質で「探し求める」という行為が伝わる。

発展

20世紀前半、タゴール(ラビーンドラナート)がバウルの精神を高く評価し、その思想がタゴール・ソング(ラビーンドラ・サンギート)にも影響した。1960年代以降、ボブ・ディランら西洋アーティストとも交流(プールナ・ダース・バウルがディランとアルバム共作)があり、バングラデシュのファキール・ロボン・ファキールらが国際的に活躍した。

出来事

  • 1774年: ラロン・シャー誕生。
  • 1923年: タゴール『The Religion of Man』でバウル評価。
  • 1968年: プールナ・ダース・バウルがボブ・ディランと共作。
  • 2005年: ユネスコ「人類の口承及び無形遺産の傑作」宣言。
  • 2008年: ユネスコ無形文化遺産代表一覧表に統合登録。

派生・影響

ベンガル現代フォーク(モヘネル・ピフィン・ファキーリ・ガーン)、タゴール・ソングへの精神的影響、世界のスピリチュアル・フォーク運動と連帯した。

音楽的特徴

楽器エクタラ、ドゥッキ、カマック、ドータラ、声

リズムケヘルワー・ダドラ、神秘的詞章、放浪歌唱

代表アーティスト

  • ラロン・シャーバングラデシュ · 1820年〜1890
  • プールナ・ダース・バウルインド · 1960年〜2024

代表曲

  • Khoda Tomare Khujechhiプールナ・ダース・バウル (1968)

日本との関係

日本ではほとんど知られていない。インド音楽への関心を持つ人がベンガル音楽の文脈で出会う程度。1970年代のボブ・ディランがプールナ・ダース・バウルと交流した(ニューヨークで会ったとされる)という話が一部の音楽ファンの間で伝わっているが、それ以上の流通はない。

初めて聴くなら

プールナ・ダース・バウルの「Khoda Tomare Khujechhi」(1968年)は、バウルの音楽性が最もよく聴き取れる一曲。エクタラの音に耳を慣らしながら、声のしなやかさを確認してほしい。その後、ラロン・シャーの詩に基づいた現代的な演奏(バングラデシュのポップスで頻繁にカバーされている)と比較して聴くと、伝統と現在形の距離がわかる。

豆知識

ラロン・シャー(1774〜1890年頃、諸説あり)が116歳以上生きたとされる話は現地では広く知られているが、正確な生没年は文書化されていない。彼の墓はクシュティア(バングラデシュ)にあり、毎年バウルの集まり(サドゥ・ションガ)の場として多くの追随者が集まる。タゴールの「我が黄金のベンガル」(バングラデシュ国歌)はバウルの旋律から影響を受けているとされる。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1700年代1850年代1990年代バウルバウルバティアリバティアリバングラ・ポップバングラ・ポップ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
バウルを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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インド · 1700年前後 (±25年)

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