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伝統・民族

黒海地方音楽(カラデニズ)

Karadeniz Music (Black Sea Regional)

トラブゾン / リゼ / アルトヴィン / トルコ / 中東 · 1900年〜

別名: Karadeniz / Black Sea folk / Laz music

黒海沿岸地方の民俗音楽をケメンチェ(縦弾き擦弦楽器)とトゥルム(バグパイプ)で継承した、山岳的で急速なホロン(輪舞)音楽。

どんな音か

カラデニズ音楽は、トルコ黒海沿岸(トラブゾン、リゼ、アルトヴィン、オルドゥ)の民俗音楽と、それを電化ロック/ポップに翻訳した現代ジャンルの総称だ。核心楽器は膝の上で縦に構える3弦擦弦楽器ケメンチェ(kemençe、ギリシャのリラに近い、アラブのラバーブとは別系統)で、独奏または対話形式で、山岳地形の急峻さをそのまま反映した高速の反復メロディを弾く。次にトゥルム(tulum、皮袋の黒海バグパイプ、スコットランドのハイランド・パイプとは無関係の独自進化系統)、ドゥヅック(davul-zurna、大太鼓+ダブルリード)、電化ロック時代にはエレキ・ギター、ベース、ドラムが加わる。中心の舞踏はホロン(horon)、6-8人が肩を組んで急速に回る輪舞で、拍子は7/16、5/8、9/8など極端に不均等なアクサック・リズムに乗る。歌詞はトルコ語のほか、東部沿岸ではラズ語(Laz、南コーカサス系、トルコ語とは全く別語族)、旧ポントス方言のギリシャ語も残る。声質は山岳民の高音のシャウトで、平地のアナトリア民謡とはっきり異質だ。

生まれた背景

黒海沿岸は歴史的にビザンティン帝国のトレビゾンド(トラブゾン)、そしてオスマン帝国内の多エスニック地域で、20世紀のトルコ共和国化(1923)と1923年ギリシャとの住民交換以降も、ラズ人、ヘムシン人(アルメニア系イスラム改宗集団)、そしてイスラム化した旧ポントス系(Rum)が土着人口として残った。ケメンチェとトゥルムは各村の結婚式、収穫祭、追悼祭で日常的に鳴り続け、20世紀後半のイスタンブールへの労働移住によって、都市部にも黒海系のホロン集まりが定着した。TRT(国営放送)が1970年代以降、黒海民謡を「地方民俗音楽」として録音・アーカイブ化したことも継承を助けた。電化・ポップ化の決定的な世代は、リゼ出身のKazım Koyuncu(1971-2005)で、彼はダブレゲエロックをカラデニズ楽器と組み合わせ、1990年代末から2000年代前半に若い世代の代弁者となった。

聴きどころ

ケメンチェの音の粒立ちに注目してほしい。膝の上で縦に構え、指を弦に押し付けるのではなく爪の側面で軽く触れる奏法が、他の擦弦楽器にはない鋭く跳ねる高音を作る。Kazım Koyuncu『Ben Seni Sevduğumi』(2003)は、ケメンチェの高速反復メロディにレゲエ・ワン・ドロップのビートを合流させた、電化世代の実験の頂点。7/16のホロン・リズムを4/4のロック・ドラムがサポートする独特のポリリズムが聴きどころ。Volkan Konak『İmera』(2000)はより伝統的な唱法で、彼の高音シャウトの張り方に山岳民の声の型が残っている。歌詞の中に時々出てくる「daha(まだ)」「haydi(さあ)」といったトルコ語の共通語彙と、ラズ語の異質な音節構造が交錯する瞬間も、この地域の多言語性を伝える。

発展

電化・ポップ化の決定的な世代は、リゼ出身のKazım Koyuncu(1971-2005)で、彼はダブ、レゲエ、ロックをカラデニズ楽器と組み合わせ、1990年代末から2000年代前半に若い世代の代弁者となった。2005年に34歳で肺癌により死去、この病はチェルノブイリ原発事故(1986)後の黒海沿岸の放射能汚染との因果が本人生前から議論されていた。彼と並ぶスター、Volkan Konak(1966-2024、トラブゾン生)は伝統的な唱法をよりポピュラーな形にした国民的存在だった。近年はGökhan Birben、Erkan Ocaklı、そしてラズ語で歌うBirol Topaloğluらが世代を継承している。

出来事

  • 1990年代末: Kazım Koyuncu、ダブ/レゲエ融合開始
  • 2000-05: Kazım Koyuncu全盛期
  • 2005: Kazım Koyuncu死去、放射能汚染論争
  • 2020年代: Volkan Konak、伝統派の国民的継承

派生・影響

アナトリア民謡(anatolian-folk)の兄弟。1990年代のロック電化世代を通じてAnadolu Rock/Turkish indieとも連結。

音楽的特徴

楽器ケメンチェ(3弦擦弦)、トゥルム(黒海バグパイプ)、ダーヴル(大太鼓)、ズルナ、電化世代はエレキ・ギター、ベース、ドラム、ボーカル

リズム7/16、5/8、9/8のアクサック(不均等拍)、ホロン(輪舞)の急速な反復

代表アーティスト

  • Volkan Konakトルコ · 1988年〜2024
  • Kazım Koyuncuトルコ · 1995年〜2005

代表曲・古典

代表曲・現在

日本との関係

日本でのカラデニズ音楽認知はほぼゼロに近い。1990年代の日本の一部のエスニック音楽好きの間で、TRTアーカイブのカセット/CDが輸入盤店(Tower、HMV)経由で少数流通した記録はあるが、それも周辺的だった。Kazım Koyuncuの死(2005)後、彼のドキュメンタリー映画『Gülüm Benim』(2006)が2010年代に日本トルコ映画特集で上映された記録があるが、それ以上の展開はない。日本の音楽ライターで彼を紹介した数少ない例として、ケメンチェの音を「琉球の三線に似た土着の弦楽器」と説明した記事がある。

初めて聴くなら

最初はKazım Koyuncu『Ben Seni Sevduğumi』(2003)、電化世代のカラデニズ音楽の代表格。次に伝統派としてVolkan Konak『İmera』(2000)、ケメンチェの伝統的な奏法とホロン・リズムが体感できる。Kazımの遺作アルバム『Hayde』(2004)は彼のダブ/レゲエ融合の到達点で、トルコ音楽の可能性の限界を試した一枚。海の近く、あるいは山の高地で聴くと、地形と音の関係が体で分かる。

豆知識

Kazım Koyuncuの2005年6月25日の死は肺癌で、彼の家族と支援者は生前から一貫して、この病は1986年チェルノブイリ原発事故後の黒海沿岸の放射能汚染と因果関係があると主張してきた。トルコ政府は当時、事故直後にチェルノブイリの放射性降下物が黒海沿岸に到達したにもかかわらず、住民への警告や紅茶(この地域の主要産業)の摂取制限を怠ったとして、彼の死後にも継続して批判されている。ラズ人のミュージシャンBirol Topaloğluはラズ語(南コーカサス系)のみで歌う数少ないアーティストで、彼の活動は消滅危機言語(UNESCOはラズ語を「深刻な危機」に指定)の保存活動としても機能している。ケメンチェはビザンティン期のギリシャの弦楽器リラ(lyra)の直系子孫で、ギリシャのポントス系ディアスポラ(1923年住民交換後のギリシャ本土)でも同一楽器がポンティアキ・リラとして残っており、両者を並べて演奏する国際交流企画も2010年代以降増えている。

影響・派生で結ばれたジャンル

黒海地方音楽(カラデニズ)を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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