デンマーク・インディー
Mewの2003年からIceageの2011年まで、コペンハーゲン発のオルタナティヴ/ポストパンクの流派。
どんな音か
デンマーク・インディーは2000年代以降のコペンハーゲンを中心とするオルタナティヴ・ロック、ドリーム・ポップ、ポストパンク、エレクトロニック・インディーを総称する。共通項があるとすれば、北欧的な低彩度のサウンド、実験を恐れないアレンジ、そして海外の批評家サーキット(Pitchfork、The Wire、Fact、Boomkatなど)に評価されることを前提にした活動戦略にある。Mew(1994結成、2003年『Frengers』で国際的認知)、Efterklang(2001結成、アンビエント/オーケストラ折衷)、WhoMadeWho(2003結成、エレクトロニック・パンク折衷)が2000年代の三本柱で、2010年代にIceage(2008結成、ポストパンク)、When Saints Go Machine(2007結成、エレクトロ・ソウル)が加わった。編成は3〜5人が典型で、ライブ会場はコペンハーゲンのVegaクラブとRoskilde Festivalが二大拠点だ。
生まれた背景
起点は1994年結成のMew(ヘルシンオア出身の3人組)で、Jonas Bjerreの独特なファルセットと複雑な変拍子アレンジで、2003年の『Frengers』(英インディー・チャート40位圏)が国際的な地位を得た。Radioheadの『In Rainbows』(2007)やSigur Rósの『Ágætis byrjun』(1999)と並ぶ北欧アート・ロックの担い手として定着した。並行してEfterklangは2001年コペンハーゲンで結成、Rune Mølgaard/Casper Clausen/Mads Brauer/Thomas Husmerを中心にアンビエントとオーケストラを組み合わせた作風で、2010年『Magic Chairs』ではベルリンの4ADレーベル(The National、Bon Iverと同じホーム)からリリースするに至った。
聴きどころ
MewのJonas Bjerreのボーカルは、ミッキー・マウス的なほどに高いファルセットで、これが複雑な7/8や5/4の変拍子アレンジと重なる。『Am I Wry? No』のリフはロックの基準では歪だが、この歪さが世代の耳を捉えた核心だ。IceageのElias Bender Rønnenfeltは対照的に、平坦で緊張感のある語り歌唱で、『New Brigade』では17歳のポストパンク・バンドがJoy DivisionやThe Fallの語法を消化した瞬間が刻まれている。Efterklangの『Modern Drift』は逆に開放的で、弦楽アンサンブルとCasper Clausenの浮遊するボーカルが柔らかく積み重なる。同じコペンハーゲンでも、Mewが変拍子、Iceageがポストパンク、Efterklangがアンビエントと、方向性は完全に異なる。
発展
2008年、コペンハーゲンの高校生バンドとして結成されたIceage(平均年齢17歳)が2011年『New Brigade』でThe Wire、Pitchforkに絶賛され、2010年代のポストパンク再興の欧州側の代表格となった。同世代のWhen Saints Go Machineは2007年結成、2013年『Infinity Pool』で!K7レコーズと契約、エレクトロニック・ソウルの新機軸を打ち出した。2010年代後半にはIris Gold(ソウル/R&B)、Off Bloom(エレクトロニック・ポップ)らが海外に活動を広げた。
出来事
- 2003年: Mew『Frengers』国際デビュー
- 2007年: WhoMadeWho『Green Versions』
- 2010年: Efterklang『Magic Chairs』(4AD)
- 2011年: Iceage『New Brigade』
- 2013年: When Saints Go Machine『Infinity Pool』(!K7)
派生・影響
インディー・ロックの北欧派生。ポストパンク第二世代、ドリーム・ポップ、アート・ロックとの交差。
音楽的特徴
楽器エレキギター、ベース、ドラム、シンセサイザー、ボーカル、時に弦楽アンサンブル
リズムミッド・テンポ4/4、変拍子、ポストパンクの疾走、ドリーム・ポップの緩やかな漂流
代表アーティスト
- Mew
- Efterklang
- WhoMadeWho
- When Saints Go Machine
- Iceage
代表曲・古典
Am I Wry? No — Mew (2003)
Special — Mew (2005)
Green Versions — WhoMadeWho (2007)
Modern Drift — Efterklang (2010)
New Brigade — Iceage (2011)
Ecstasy — Iceage (2013)
Love and Respect — When Saints Go Machine (2013)
日本との関係
デンマーク・インディーの日本での認知は、Radiohead/Bon Iver系の海外オルタナ・ファン層に限定されているが、その層では確固たる地位を持つ。Mewは2005年に日本デビュー、2010年代に複数回来日公演を果たし、渋谷WWWや大阪Big Catでの単独公演を実現している。Efterklangは2013年フジロック・ホワイトステージに出演、Iceageは2018年にSummer SonicのMountain Stage枠で来日した。国内の類似世代としてMew的な複雑さを持つのがtoeやenvy、Iceage的な神経質さを持つのが下山や折坂悠太で、リスナーの層が交差する。CDジャーナル、Sound & Recordingなどの音楽誌が2010年代半ばに彼らを特集し、Pitchfork翻訳経由の情報流通が国内批評を形成した。
初めて聴くなら
入り口はMewの『Am I Wry? No』(2003)、変拍子と高音ボーカルの独特の組み合わせが最も明快に聴ける。次にIceageの『New Brigade』(2011)、ポストパンク再興の現代形を体感できる。Efterklangの『Modern Drift』(2010)は逆にゆったりした導入で、弦楽と電子音の折衷が向いている人に。When Saints Go Machineの『Love and Respect』(2013、feat. Killer Mike)は、エレクトロニック・ソウルの北欧的解釈だ。深夜、部屋を暗めにして、ヘッドフォンで聴くのが一番設計に合う。
豆知識
Iceageが2011年『New Brigade』でデビューしたとき、メンバー4人全員が高校生で、平均年齢17歳だった。イギリスThe Wire誌の編集長Rob Youngが同誌の『2011年ベスト・アルバム』でIceageを選んだ時、彼らは学校をサボってツアーに出ていた。以降Iceageは4枚のアルバムで着実に音楽的成熟を遂げ、5枚目『Seek Shelter』(2021)ではポストパンクからカントリー/ゴスペルまで拡張した。MewのメンバーはMew結成前にはヘルシンオアの高校のバンド室で毎日リハーサルをしていたが、そのメンバー構成は結成から30年間ほぼ変わっていない(創設メンバーのBo Madsenは2015年に脱退、他は継続)。Efterklangの現在の本拠地はコペンハーゲンではなくベルリンで、Casper Clausenは2010年代半ばに移住した。
