デンマーク・メタル
Mercyful Fate/King Diamondの1983年『Melissa』から、Volbeatのアリーナ・メタルまで、デンマーク発ヘヴィ・ロックの40年。
どんな音か
デンマーク・メタルは1980年代前半のMercyful Fateを起点とする。コペンハーゲン出身のシンガーKing Diamond(本名Kim Bendix Petersen、1956-)の異常に高いファルセット(頭声で最高音域Eb6まで届く)と、悪魔崇拝的な歌詞、二本のギターがハモらずに絡み合う対位法的な編曲が同時代のNWOBHM(ニューウェーブ of British ヘヴィメタル)と決定的に違う様式を作った。この様式は1990年代初頭のノルウェー黒金属(Mayhem、Emperor、Immortal)がキング・ダイアモンドの語法を継承・過激化させたことで、事実上「北欧黒金属の親」と位置付けられている。1990年代のD-A-D(元Disneyland After Dark、1982結成)がハード・ロック路線を、2000年代のVolbeat(2001結成)がエルヴィス・プレスリー風のロカビリー・ボーカルとメタル・リフを組み合わせた独自路線を確立、後者は2010年代に北米アリーナ級の動員を達成した。
生まれた背景
Mercyful Fate結成は1981年、リーダーのKing Diamondはコペンハーゲンの労働者街生まれ、ボーカル訓練は独学で、彼のファルセットは1980年代のメタル・ボーカルの限界を書き換えた。1983年のデビュー盤『Melissa』は英ケラング誌の「NWOBHM史上重要作50選」に選出され、続く『Don't Break the Oath』(1984)は後のノルウェー黒金属勢が全員参照する作品となった。King Diamondが着用する白黒のフェイスペイント(コープス・ペイント)は、ノルウェー黒金属勢が1990年代に採用した同じスタイルの直接の起源であり、Mayhemの故Euronymous(1993年殺害)が生前『我々がやっていることは全てKing Diamondから始まった』と発言している。King Diamondは1985年にソロ・プロジェクトを立ち上げ、1987年『Abigail』でホラー・コンセプト・アルバムの型を発明した。
聴きどころ
King Diamondのファルセットは音楽的だが技術的でもあり、彼は1曲の中で3〜4オクターブを行き来する。『Melissa』のタイトル曲で彼が最高音Eb6に達する瞬間を追うと、ボーカルがギターの高音域よりも上に位置する構造が体感できる。次にMercyful Fateの二本のギター(Hank ShermannとMichael Denner)が3度や5度でハモらず、それぞれ独立した対位法的な旋律を弾く点も特徴で、これは同時代のIron MaidenやJudas Priestのハーモニー・ギターとは根本的に違う設計だ。Volbeatの『Still Counting』は逆にシンプルさが売りで、Michael Poulsenの野太いエルヴィス風ボーカルとダウン・チューンされたリフの組み合わせが、北米のアリーナ・メタル市場に完璧に適合した。
発展
1989年、Disneyland After Dark(後にD-A-Dに改名)が『Sleeping My Day Away』で全米デビュー、AC/DC寄りのハード・ロック路線で北欧市場を制した。2001年結成のVolbeatはCorpus MortemというデスメタルバンドからMichael Poulsenが独立して結成、ロカビリーとメタルの折衷を売りに2005年『The Strength/The Sound/The Songs』でメジャー・デビュー、2013年『Outlaw Gentlemen & Shady Ladies』で全米ビルボード9位を獲得した。
出来事
- 1983年: Mercyful Fate『Melissa』
- 1987年: King Diamond『Abigail』
- 1989年: D-A-D『No Fuel Left for the Pilgrims』(米デビュー)
- 2007年: Volbeat『Rock the Rebel/Metal the Devil』欧州ヒット
- 2013年: Volbeat全米9位
派生・影響
ノルウェー黒金属の直接の親、ヘヴィ・メタルの北欧派生。
音楽的特徴
楽器ディストーション・エレキギター2本、ベース、ドラム、ボーカル(ファルセット主体)、時にキーボード
リズム4/4のメタル・ビート、時に対位法的な2本ギター、ミッド・テンポからハイ・テンポ
代表アーティスト
- Mercyful Fate
- D-A-D
- King Diamond
- Volbeat
代表曲・古典
Melissa — Mercyful Fate (1983)
Come to the Sabbath — Mercyful Fate (1984)
Abigail — King Diamond (1987)
Welcome Home — King Diamond (1988)
Sleeping My Day Away — D-A-D (1989)
Girl Nation — D-A-D (1997)
Still Counting — Volbeat (2007)
代表曲・現在
The Devil's Bleeding Crown — Volbeat (2016)
日本との関係
Mercyful FateとKing Diamondは1980年代から日本のメタル・シーンに深く定着しており、雑誌『BURRN!』が創刊初期(1984-)から彼らを継続的に取り上げてきた。1988年のKing Diamond初来日公演(渋谷公会堂・大阪厚生年金会館)は、当時の日本のメタル・ファンにとってのランドマーク的イベントで、以降定期的に来日を果たしている。ノルウェー黒金属の親としてのMercyful Fateの位置づけは、日本の90年代黒金属シーン(Sigh、Abigailらの活動)にも直接影響した。バンド名Abigailを冠する日本のブラック・メタル・バンドは、King Diamondのソロ作『Abigail』への直接的な敬意から命名されている。Volbeatは2010年代にLoud Park(千葉幕張、日本最大のメタル・フェス)に複数回出演した。
初めて聴くなら
入り口はMercyful Fate『Melissa』(1983)のタイトル曲。King Diamondのファルセットと対位法的ギターの設計が最も明快な形で聴ける。次にKing Diamondのソロ『Abigail』(1987)、ホラー・コンセプト・アルバムの型が全編通して味わえる。D-A-D『Sleeping My Day Away』(1989)はハード・ロック側の入り口として、Volbeat『Still Counting』(2007)は現代のデンマーク・メタルとして、それぞれ聴きやすい。ヘッドフォンよりも大きめの音量でスピーカーが向いている、というのは全メタルに共通の作法だ。
豆知識
King Diamondは1980年代のインタビューでLaVeyian Satanism(現代悪魔主義、1966年にAnton LaVeyが創始した無神論的宗教)への傾倒を表明していたが、これはキリスト教への反逆であって伝統的な悪魔崇拝ではないと本人が繰り返し説明している。彼が着用する骨で作られた十字架のマイクスタンドは、コペンハーゲンの骨董商から個人的に入手したもので、以降40年のツアーを共にしている。VolbeatのMichael Poulsenは、バンド結成前はデスメタル・バンドCorpus Mortemに在籍していたが、父親の突然の死を経てエルヴィス・プレスリーへの傾倒が深まり、それがVolbeatの音楽性の原点となった。彼の父親はエルヴィスの熱烈なファンだったという。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- ポップデンマーク・ポップ
- ロック・メタルデンマーク・インディー
