2026年3月15日

シカゴ・ドリルが世界を変えた4年間

Chief Keef、Young Chop、そしてシカゴ南部の冷たいビート

5分で読めます

ヒップホップ・R&B

シカゴ南部の17歳

2012年5月、シカゴ南部に住む17歳のラッパー、Chief Keef が録音した1曲が、突然全国で話題になった。曲名は『I Don't Like』。それまでの彼は、シカゴ南部以外では誰にも知られていなかった。

カニエ・ウェスト(同じシカゴ出身) が自分のスタジオでこの曲をリミックスした瞬間、「ドリル」というサウンドは地元のものではなくなった。

Young Chopの「冷たいビート」

ドリルというジャンルの話の前に、まず2010年前後のシカゴ南部の事情を一つだけ。当時のシカゴ南部は、ギャングの抗争で全米トップクラスの殺人率を記録していた。10代の若者が次々に銃で死ぬ街で、ティーンエイジャーたちが YouTube に自分のラップ動画を上げ始めた。

サウンドを作ったのは、Young Chop という同年代のプロデューサーだった。冷たい808ベース、ハイハットの3連打、ホラー映画のシンセパッド。それまでの南部トラップとも、ニューヨークの暴力的ラップとも違う、「ビートそのものが冷たい」音響だった。

下が事の発端の1曲。再生してみると、ヒップホップとしては奇妙なほど旋律が少なく、空間に隙間が多い。これは2012年の音だ。

2018年、ブルックリンで爆発する

2014年、ドリルの音響は大西洋を渡る。ロンドンのラッパーたちが、シカゴのビートを引用しつつ、UKガラージ由来のスライド・ベースを混ぜたスタイル「UKドリル」を作る。

さらに2018年、UKドリルがニューヨークに逆輸入される。Pop Smoke という19歳のラッパーが、UK のプロデューサー808Melo と組んで『Welcome to the Party』を発表した瞬間、ドリルは正式に「世界の言葉」になった。

この曲を再生すると、シカゴ・ドリルの2012年のビートと、UKドリル特有のうねるベースが、ニューヨークのラッパーの低音ボイスで結びついているのが分かる。3つの場所が、一つの曲のなかに同居している。

Pop Smokeのいない世界で

2020年、Pop Smoke はロサンゼルスで強盗に襲われて死んだ。20歳だった。だが、ドリルはすでに彼ひとりのものではなくなっていた。フランス(ZONE 9)、オーストラリアガーナ日本ブラジル — それぞれの都市が「自分たちのドリル」を持つようになっていた。

シカゴ南部の17歳が録音した1曲が、たった4年で世界の都市部のヒップホップを決定的に変えた。音楽の歴史でも、これほどの速度はめったにない出来事だった。

この記事のサウンド

記事一覧へ戻る