アフロビートからアフロビーツへの長い夜
Felaが残したもの、Wizkidが受け継がなかったもの
3行まとめ
- アフロビートは、Fela Kutiが作った長尺で政治的な、20人編成のバンド音楽だった。
- アフロビーツは、2010年代のラゴスとアクラで育った、ダンスホールやR&Bに近い3分のポップだ。
- WizkidたちはFelaのリズム感覚を受け継いだが、長さ、編成、抗議の役割はあえて置いてきた。
伝統・民族ヒップホップ・R&B
「アフロビート」と「アフロビーツ」の違い
音楽記事はしばしばこの2語を一語のように潰す。そのたびに読者は、知っておくべき肝心な違いを取りこぼしている。両者は別物だ。「アフロビート」と「アフロビーツ」は、曾祖父と曾孫のような関係にある。血はつながっているが、あいだには半世紀ぶんの人生の選択が横たわっている。
「アフロビート」(アフロビート、単数形) は、ナイジェリアの Fela Kuti がドラマーの Tony Allen とともに1960年代後半に作り上げたサウンドだ。ジャズ、ファンク、ハイライフ、ヨルバの伝統音楽を融合させたものである。「アフロビーツ」(アフロビーツ、複数形) は2000年代後半にラゴスとアクラで形づくられ、2010年代に世界へ広がったポップ・ジャンルだ。ナイジェリアやガーナの若いプロデューサーが、ダンスホールやヒップホップを取り入れて作り上げた。
Fela Kutiの長尺、政治、大編成バンド
Fela Kuti のアフロビートは、独立後のアフリカが自らの進む道をめぐって内側で揉めている——その音だった。10分から30分におよぶ長尺、20人を超える大編成(バンド名は Africa '70、のちに エジプト '80)、ピジン英語とヨルバ語混じりの政治的な歌詞。彼自身も活動家として軍事政権と何度も衝突し、生涯で200回以上逮捕されたと言われる。
『Zombie』(1976)。ナイジェリア軍を「無思考のゾンビ」と歌ったこの一曲が、ひとつの共和国を焼き払うきっかけになった。彼が仲間と暮らし独立を宣言した居住地「カラクタ共和国」は、1977年に軍の襲撃を受ける。このとき母親(活動家 Funmilayo Ransome-Kuti)は建物の2階の窓から投げ落とされ、その傷がもとで翌1978年に亡くなった。1979年、Fela は母の棺を国家元首の兵営まで運んで抗議し、その怒りを『Coffin for Head of State』(1980年)という一枚に刻んだ。
それが、この音楽の代償だった。彼にとって曲は、政治の衣をまとった娯楽ではなかった。政治そのものだった。
Wizkid世代が選んだもの、捨てたもの
2010年代後半、ナイジェリアの新世代の音楽が「アフロビーツ」(複数形 s 付き)と呼ばれて世界に広がる。チャートを席巻した Wizkid や Burna Boy をはじめ、彼らはみな Fela Kuti を知っているし、リスペクトしている。
だが、彼らが Fela から受け継いだのは、主にあのリズムの感触と、ラゴスを世界の中心とみなす姿勢だ。長尺ではなく3分のラジオフォーマット、政治的歌詞ではなく日常、大人数のバンドではなく少人数のスタジオ制作。歌うのは恋愛、金、見栄、そしてダンスフロア——だいたいその順だ。
下は Wizkid のヒット曲『Essence』(2020年、Tems参加)。批評家はこの曲を、Fela の長尺曲のひ孫にあたると評した。長い原曲を、Spotify のプレイリストに収まる3分へ圧縮したような一曲だ、と。この曲は2021年に Justin Bieber 参加のリミックスで、ナイジェリア発の曲として初めて Billboard Hot 100 のトップ10入りを果たしている。
Shrineはいまも開いている
ラゴスの「New Afrika Shrine」では、いまも親子三代が8〜10分のアフロビートを鳴らしている。Fela Kuti の息子 Femi Kuti と孫 Made Kuti だ。Fela 自身は1997年に亡くなった(死因はAIDS関連の合併症とされたが、本人は生前これを公に否定していた)。この New Afrika Shrine は、旧 Shrine がその死後に荒廃したのを受け、一家が2000年に開いた場所だ。Femi と Made は2021年、Femi の作と Made のデビュー作を束ねた2枚組プロジェクト『Legacy+』を連名で発表し、翌2022年のグラミー Best Global Music Album 部門候補にもなった。
アフロビートは消滅していない。Shrine で親子三代が長尺を奏でる一方、Burna Boy はロンドンの O2 アリーナを満員にする。彼らが守る伝統と、Spotify のチャートを征服した「アフロビーツ」のあいだには、すでに半世紀の隔たりがある。いわば父と子と孫が、同じ家の別々の部屋で鳴らしているようなものだ。
作者のひとこと
Felaの『Zombie』からWizkidの『Essence』へ飛ぶと、最初は別世界に聴こえます。でも少し聴くと、受け継がれたリズムと置いてきたものの両方が見えてきます。
