WorldMusic

伝統・民族

マロヤ

Maloya

サン=ドニ / サン=ピエール / フランス(レユニオン) / 南アフリカ · 1700年〜

別名: Maloya réunionnais / Malagasy-Réunionnaise chant

レユニオン島の奴隷子孫が3拍子の打楽器で歌い継いだ抵抗の音楽。UNESCO無形文化遺産(2009)。

どんな音か

マロヤは、インド洋の仏領レユニオン島で、マダガスカルと東アフリカから連れて来られた奴隷の子孫が発達させた3拍子の歌と踊りの伝統だ。旋律楽器を持たず、kayamb(種子入りの平型シェイカー)、roulèr(奴隷が地面に置いて足で挟んで叩く大型樽太鼓)、sati(金属の空缶ケトル)、bobre(弓)と、声だけで構成される。テンポは60-90BPMの遅い3拍子で、リード歌手の呼びかけにコーラス全員が応答するコール&レスポンスが基本構造だ。歌詞はレユニオン・クレオール語で、奴隷労働の記憶、祖霊への祈願、政治的抗議、日常の哀感を扱う。

生まれた背景

17世紀のフランス植民地化以降、レユニオン島(旧称ブルボン島)にはマダガスカル、モザンビーク、東アフリカ沿岸から多数の奴隷が連行された。マロヤは、彼らが持ち込んだマラガシー系の3拍子歌唱と、キャンプの中で発達した打楽器合奏が融合したもので、service kabaréと呼ばれる祖霊憑依儀礼の音楽的中核でもあった。フランスの同化政策下でマロヤは「原始的」「反社会的」と見なされ、1963年ドゴール政権下の県政令で事実上の演奏禁止措置が取られ、1981年ミッテラン就任まで公の場での演奏は不可能に近かった。

聴きどころ

まず旋律楽器の不在に耳を慣らしてほしい。マロヤの音場は打楽器と人声だけで構成されるので、聴き手は「音の隙間」を聴くことになる。次にkayambの独特のシャッと擦れるアタック音、そしてroulèrの低音の胸に響く重み。この二つが3拍子の骨格を作り、その上に歌手たちの応答が編み込まれる。Danyèl Waroの『Batarsité』(2002)は、伝統様式を保ったまま録音技術で耳の距離を近づけた現代盤で、彼の詩の言葉のリズムと打楽器のリズムがずれる瞬間が最大の聴きどころだ。ライブでは歌い手たちが円陣で座り、聴衆も歌に参加する。

発展

禁令下でも Firmin Viry(1935-2018)、Gramoun Lélé(1930-2004)らがコミュニティ内で伝統を保持し、1970年代半ばには島の共産党系文化運動Front Culturelがマロヤをアイデンティティの象徴として掲げた。1981年の解禁以降、Danyèl Waro(1955-)がマロヤを世界の耳に届ける決定的な担い手となり、1998年『Foutan Fonnkèr』、2002年『Batarsité』で反植民地の詩篇を刻んだ。2009年10月、UNESCO無形文化遺産に登録され、島の文化政策の中心に置かれた。

出来事

  • 1963: 県政令でマロヤ実質禁止
  • 1976: Firmin Viry初期EP録音
  • 1981: 禁令解除
  • 1998: Danyèl Waro『Foutan Fonnkèr』
  • 2009: UNESCO無形文化遺産登録

派生・影響

サレジー(マダガスカル)、セガ(モーリシャス)と兄弟関係。近年はマロヤ・レゲエ、マロヤ・エレクトロといった混成形が生まれつつある。

音楽的特徴

楽器kayamb(シェイカー)、roulèr(樽太鼓)、sati(金属ケトル)、bobre(弓)、時にjembe、リード歌手+集団応答

リズム60-90BPMの3拍子、セスキアルテラ寄りの伸縮、リードとコーラスのコール&レスポンス、憑依儀礼serviceカバレーからの継承

代表アーティスト

  • Gramoun Léléフランス(レユニオン) · 1950年〜2004
  • Firmin Viryフランス(レユニオン) · 1965年〜2018
  • Danyèl Waroフランス(レユニオン) · 1976年〜
  • Christine Salemフランス(レユニオン) · 1998年〜
  • Nathalie Natiembéフランス(レユニオン) · 1998年〜

代表曲

  • BatarsitéDanyèl Waro (2002)
  • NamounimanGramoun Lélé (1996)
  • MaloyaFirmin Viry (1997)
  • Foutan FonnkèrDanyèl Waro (1998)

その後の代表曲

日本との関係

日本での認知は極めて薄く、レユニオン島そのものが日本ではほぼ知られていない。ワールドミュージック批評やUNESCO登録関連の紹介記事で言及される程度で、Danyèl Waroの来日公演は限定的、Firmin ViryとGramoun Léléは日本では音源が正規流通していない。この事情は率直に述べるべきで、マロヤは「日本人が耳にする機会がほぼゼロ」の音楽の代表例の一つだ。UNESCO無形文化遺産登録(2009)は世界的な認知回路の起点になったが、日本語のマロヤ入門書は現時点でほぼ存在しない。

初めて聴くなら

最初はDanyèl Waroの『Foutan Fonnkèr』(1998)、マロヤの現代的な担い手による代表作で、詩の言葉と打楽器のリズムがずれる瞬間が明快に聴ける。次に『Batarsité』(2002)、反植民地の詩篇をタイトルにしたアルバムで、Waroの政治的な側面が最も剥き出しになった録音だ。伝統派を聴きたければGramoun Lélé『Namouniman』(1996)、彼と息子・孫の家族単位でのservice kabaréの記録として貴重。現代の女性側からはChristine Salem『Larg' Pa Lo Kor』(2011)、マロヤブルースに近い低音の男性歌手中心の場から解き放った作品だ。

豆知識

マロヤ」の語源はマダガスカルのマラガシー語maloya(悲しみ、憂鬱)から派生したとする説が有力だ。1963年の県政令はマロヤを名指しで禁じたわけではなく「反フランス的な集会」を制限する形で運用されたため、正確な禁令期間の記録は残っていない。1970年代半ばに島の共産党系文化運動Front Culturelがマロヤをアイデンティティの象徴として掲げたことで、この音楽は政治的意味を帯びた。roulèrは伝統的にrhum(サトウキビ蒸留酒)の空樽で作られ、音は樽の乾燥具合と皮の張り方で決まるとされる。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1670年代1700年代1750年代1960年代マロヤマロヤウィンティ音楽ウィンティ音楽セガセガサレジーサレジーレゲエレゲエ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
マロヤを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

マロヤ の系譜全体図(多段)を見る