セガ
モーリシャス+レユニオンの奴隷子孫が発達させた2/4クレオール・ダンス歌謡。
どんな音か
セガは、インド洋のモーリシャス、レユニオン、ロドリゲス諸島で、東アフリカ・マダガスカルから連行された奴隷とその子孫(Creole)が発達させた2/4のダンス歌謡だ。中心楽器はravanne(山羊皮の平型手叩きフレーム・ドラム、直径50-70cm)、maravanne(乾いた種子を詰めた振り箱)、triangle(金属三角)で、リード歌手のクレオール語の呼びかけに集団が応答する。テンポは110-140BPMの2/4、ダンスは腰の低い旋回運動を基本とし、上半身は静かで下半身が主導する独特のグラウンド感を持つ。歌詞はモーリシャス・クレオール語またはレユニオン・クレオール語で、労働の疲れ、恋、社会批評を扱う。同じインド洋の兄弟形式maloya(レユニオン、3拍子)とは、ダンス歌謡と儀礼歌の対照で明確に区別される。
生まれた背景
18世紀のフランス植民地時代、モーリシャス(旧イル・ド・フランス)には東アフリカ・マダガスカルから多数の奴隷が連行された。彼らが持ち込んだリズム語彙とキャンプ内での共同労働の歌が融合し、セガの原型が18世紀後半までに形作られた。奴隷解放(モーリシャスは1835年英植民地下)後もCreoleコミュニティの中心的な娯楽・儀礼として継承され、20世紀前半にはTi Frer(1900-1992)がセガの語彙を最も体系的に演奏・記録した。1968年のモーリシャス独立後、セガは国家的アイデンティティの音楽として公的に承認され、UNESCO無形文化遺産にも登録されている(モーリシャス・セガ・タイプィックは2014年、ロドリゲス・セガ・タンブーラは2017年)。
聴きどころ
まずravanneの2・4拍のアクセントに耳を集中してほしい。演奏者は太鼓を膝の上に垂直に立て、右手の指の腹で2・4拍を強く叩き、左手で表拍の弱い8分を打つ。次にmaravanneの8分刻みが上に乗り、triangleが表拍を刻む。この3要素で2/4のダンス・グルーヴが完成する。歌はリード歌手のクレオール語の呼びかけに、集団が「Aya!」「Ah!」といった短い応答を返すコール&レスポンスが基本。Ti Frer『セガ Ravanne』(1970)は伝統派の最良の入り口で、電化前のセガの音質が味わえる。Kaya『Racinetatane』(1990)はseggae(セガ+レゲエ)の分岐点として歴史的に重要だ。
発展
1970年代以降、Serge Lebrasse、Roger Augustinらがエレクトリック・ギター+ベースを加えた「セガ電化」を進めセガ・カセットの黄金期を作った。1980年代末にはKaya(1960-1999、本名Joseph Reginald Topize)がセガとレゲエを融合させたseggaeを創出し、若い世代の国民的スターとなったが、1999年に警察拘留中に変死、これがモーリシャス国民の集団的トラウマとなり暴動を引き起こした。2000年代以降はMenwar、Bruno Rayaがルーツ回帰型のセガ・タイプィックを継承し、レユニオン側では独自にsega tambourという地方型が並行して育っている。UNESCOはモーリシャスのセガ・タイプィックを2014年、ロドリゲスのセガ・タンブーラを2017年に無形文化遺産登録した。
出来事
- 1750s: フランス植民地下で成立
- 1968: モーリシャス独立、セガが国民音楽化
- 1970s: Serge Lebrasseの電化
- 1999: Kaya警察拘留中に死亡
- 2014: UNESCO無形文化遺産登録
派生・影響
レユニオンのmaloyaと兄弟関係、モーリシャスのseggae(セガ+レゲエ)の親、seychelles moutyaと兄弟関係。
音楽的特徴
楽器ravanne(手叩きフレーム・ドラム)、maravanne(振り箱)、triangle、時にアコースティック・ギター、リード歌手+集団応答、1970s以降はエレクトリック編成
リズム2/4(110-140BPM)、ravanneが2・4拍を叩きmaravanneが8分刻み、triangleが表拍を刻む、拍の外の即興ブレイク
代表アーティスト
- Ti Frer
- Serge Lebrasse
- Roger Augustin
- Kaya
- Menwar
- Bruno Raya
代表曲
- Anita — Ti Frer (1975)
Madame Eugène — Serge Lebrasse (1978)
Séga Ravanne — Ti Frer (1970)
Séga Moris — Roger Augustin (1980)
Racinetatane — Kaya (1990)
Simé la Rou — Kaya (1997)
その後の代表曲
Zistoir Zenfan — Menwar (2008)
Séga Tipik — Bruno Raya (2012)
日本との関係
初めて聴くなら
最初はTi Frer『セガ Ravanne』(1970年代のアーカイヴ録音)、モーリシャス・セガの伝統派の決定盤。電化前のravanne+maravanne+triangleの原初的な編成が聴ける。次にSerge Lebrasse『Madame Eugène』、電化セガ黄金期の代表曲で、ダンスホールの熱気が録音に残る。歴史的な重み込みで聴くならKaya『Racinetatane』(1990)、seggaeの原点であり、彼の1999年の警察拘留死という悲劇的な後日談を知った上で聴くと、この音源の重みが変わる。UNESCOの登録記録的な文脈からはBruno Rayaの2010年代の伝統派録音も外せない。
豆知識
「セガ」の語源は明確ではなく、モザンビーク由来のバンツー諸語sega(スカート)、あるいはマダガスカル・マラガシー語saika(踊り)由来説など複数の説がある。ravanne太鼓は伝統的に山羊皮を焚き火の熱で軟化させて張る作業を演奏の直前に行い、一晩の演奏の間に音程が変化する特徴を持つ。Kaya殺害事件は1999年2月21日で、彼の死後モーリシャス全土で暴動が発生、警察と衝突する形で数名の死者が出た。この事件を機に2月21日はモーリシャスでKayaを追悼する日として位置付けられ、彼のsegge運動は現在も国民的な追悼の対象だ。ロドリゲスのセガ・タンブーラは、より大型のtambour(バレル型太鼓)を使い、モーリシャス本島のセガ・タイプィックとは編成が明確に異なる。
