Corridos Tumbados
メキシコの伝統的な語り歌コリードに、ヒップホップ(トラップ)の重低音を溶け込ませた新世代ジャンル。Peso Pluma、Natanael Canoらが2020年代にラテン音楽屈指の再生数を叩き出した。
What it sounds like
メキシコの伝統的な語り歌に、ヒップホップの一種であるトラップの重低音(808と呼ばれる深い電子ベース)をさりげなく溶け込ませた——それが世界中で支持される新世代ジャンルだ。テンポは80〜100BPMの中速。聴いた感じはあくまでメキシコの伝統音楽コリードの編成、つまり弦楽器群(12弦伴奏ギターのバホ・セクスト、高音域のレキント)と低音のトゥバを保ちつつ、そこにトラップの808ベースと、細かく刻むハイハットを重ねる。歌は鼻にかかった独特の発声で、語りかけるようなフロウ(ラップに近い節回し)で進み、サビでメロディが開く。歌詞は地元の界隈(バリオ)の生活、ナルコ文化(麻薬密売をめぐる文化)、富、ロマンスを率直に描き、ストリングスやピアノで叙情を足す曲も多い。録音はクリアで、低域は深く沈むのに、ホーンや弦は乾いた響きを保つ。
How it came about
なぜメキシコの語り歌がアメリカで生まれ変わったのか——その答えは、国境の両側に暮らすメキシコ系移民の若者たちにある。ソノラ州出身のNatanael Canoと、ロサンゼルス拠点のレーベルRancho Humildeを中心に、米西海岸のメキシコ系コミュニティで形成された。歌詞はメキシコ・シナロア州を中心とするナルコ文化(麻薬密売をめぐる文化)と強く結びついている。2019年、Canoが同レーベルと組み、伝統的コリードをトラップ感覚で再構築したアルバム『Corridos Tumbados』を打ち出したのが始まりで、そのアルバム名がそのままジャンル名の由来となった。2020年代に入りPeso Pluma、Fuerza Regida、Junior Hらが続いた。TikTokでの拡散とSpotifyのラテン市場拡大も追い風となり、2023年にはPeso Pluma & Eslabón Armadoの『Ella Baila Sola』がBillboard Hot 100で4位を記録。地域メキシコ音楽(レヒオナル・メヒカーノ。メキシコの伝統系ポピュラー音楽の総称)の曲として初のトップ5入りだった。その流れを受け、Peso Plumaのアルバム『Génesis』(2023年)は2024年2月のグラミー賞で最優秀地域メキシコ音楽アルバム賞(Best Música Mexicana Album)を受賞している。
What to listen for
まず低音を聴いてほしい。二つの低音が重なり合う——強拍ごとにボンボンと鳴るトゥバ(金管の低音楽器)のベースラインと、トラップ的な808のサブベース。性格の違う二つが同じ低い帯域で響き合う。ドラムが入らない曲も多く、ハイハットや指パッチンだけでリズムを保つ「アコースティック・トラップ」的な質感も独特だ。バホ・セクスト(12弦の伴奏ギター)の和音の鳴り、レキント(高音域のギター)のオブリガートも聴きどころ。そして歌の語尾でわずかに揺らすメキシコ的なこぶし(声を細かく揺らす歌い回し)も、耳を澄ますと面白い。
If you only hear one thing
最初の一曲はPeso Pluma & Eslabón Armadoの『Ella Baila Sola』が最適だ。トゥバの低音、レキントのキラキラした上音、ラップ的な歌唱、すべてが短い尺に凝縮されている。次にNatanael Canoの『Soy El Diablo』を聴くと、ジャンル創設期の生々しい姿が見える。Fuerza Regidaの『TQM』はビートを強めた、よりクラブ向きの一曲。逆にJunior Hの『$ad Boyz』系を聴けば、同じジャンルでもメランコリックで物悲しい方向まで振れることがわかる。明るいクラブ寄りから物悲しい方向まで——陽射しの下が似合う伸びやかなサウンドで、昼下がりのドライブや、屋外でビールを開けるBBQによく似合う。
Trivia
「Tumbado」はスペイン語で「横たわった」「だらけた」の意。直訳すれば「寝そべったコリード」で、伝統的コリードの直立した勇ましさを脱力させた、というニュアンス。Natanael Canoはこのスタイルを始めたとき18歳だった。Peso Pluma(本名Hassan Emilio Kabande Laija)は2023年、地域メキシコ音楽のアーティストとして初めてジミー・ファロンの『Tonight Show』にスペイン語のまま出演した(2023年4月28日)。英語に切り替えず全米屈指の人気番組に立ったことは、英語圏でラテン音楽への関心が高まる象徴的な出来事となった。一方で影の面もある。歌詞のナルコ描写を理由に、メキシコのチワワ州やキンタナ・ロー州などではライブ会場での演奏が制限されており、Peso Plumaは2023年、麻薬カルテルからの脅迫を受けてティファナ公演を中止した。
Hear the rhythm
The signature rhythm pattern of this genre. Press play to loop it, and follow the score below to see which beat is sounding.
Notable artists
- Fuerza Regida
- Natanael Cano
- Peso Pluma
Notable tracks
- Soy El Diablo — Natanael Cano (2019)
- Ella Baila Sola — Peso Pluma (2023)
- TQM — Fuerza Regida (2023)
