アイリッシュ・トラッド
アイルランドの伝統舞踏・歌謡音楽。
どんな音か
アイルランドの伝統音楽。BPM 90〜130と曲種により幅広い。フィドル(ヴァイオリン)、ティン・ホイッスル(金属製の縦笛)、アイリッシュ・フルート(木製横笛)、イーリアン・パイプス(空気袋付きバグパイプ)、コンサーティナ/アコーディオン、バウロン(片面太鼓)、アイリッシュ・ハープ、ギターが基本編成。「ジグ」(6/8拍子)、「リール」(4/4拍子)、「ホーンパイプ」(4/4拍子)などの舞曲形式が定型。歌は男女両方、無伴奏の「ショーン・ノース(古い様式)」スタイルから現代の伴奏付きまで幅広い。歌詞はゲール語または英語。
生まれた背景
中世から口承で伝わる旋律群が基盤。19世紀の大飢饉(1845〜52)で多くのアイルランド人がアメリカ合衆国・イギリスに移民し、ボストン、ニューヨーク、シカゴで在外アイルランド人コミュニティが伝統を保持した。1950〜60年代にチーフタンズ、ザ・ダブリナーズ、クランシー・ブラザーズが商業的に成功し、世界的に「アイリッシュ・トラッド」を認知させた。1970年代に「Riverdance」(1994初演)が世界化を加速。現代ではThe Chieftains、Altan、Lúnasa、現代寄りのKíla、Lankum、Lisa O'Neillまで多様な世代が活動している。
聴きどころ
フィドルとティン・ホイッスル、フルートが同じ旋律をユニゾンで奏でる時の倍音の豊かさ。バウロン(片面太鼓)を竹のスティックで叩く独特のリズム。「セット・ダンス」(複数の曲を続けて演奏する)の盛り上がり。歌付きの「ショーン・ノース」は無伴奏で、メリスマ(節回し)が極端に多い。
発展
20世紀前半まで個人演奏が主流だったが1960年代のフォーク復興で集団演奏様式が確立。The Chieftains、Planxtyらが世界的に普及させた。さらにRiverdance以降は舞台芸術としても発展している。
出来事
- 1893: ゲール語復興運動が伝統音楽再評価を促す
- 1951: Comhaltas Ceoltóirí Éireann設立
- 1962: The Chieftains結成
- 1995: Riverdance国際公演で大衆化
派生・影響
Bluegrass、Old-time、Cape Breton音楽の源流の一つ。Celtic Rockや現代Folk-Pop経由でも世界各地に影響。
音楽的特徴
楽器フィドル、ティン・ホイッスル、イーリアン・パイプ、ボーラン、コンサーティーナ
リズム6/8(ジグ)、4/4(リール)、3/4(ホーンパイプ)
代表アーティスト
- Andy Irvine
- The Chieftains
- Planxty
- Altan
代表曲
- Cliffs of Dooneen — Planxty (1973)
- The Foggy Dew — The Chieftains (1995)
- Tuirse Mo Chroí — Altan (1996)
日本との関係
1995年のRiverdance世界ツアー来日以降、日本でもアイリッシュ音楽コミュニティが拡大。東京・名古屋・大阪に「アイリッシュ・パブ」が多数あり、毎週末セッションが開かれている。日本人のアイリッシュ音楽プレイヤー(Connla、O'Jizo、はちすずめ、しもぶくれ)が国際的にも活動している。映画『タイタニック』(1997)、『ロード・オブ・ザ・リング』(2001〜03)のサウンドトラックでアイリッシュ音楽の認知が一段広がった。
初めて聴くなら
1枚だけ聴くなら、The Chieftains『The Long Black Veil』(1995)。Mick Jagger、Sting、Sinéad O'Connorらと共演した代表作。歌付きなら、Sinéad O'Connor『Sean-Nós Nua』(2002)、Lankum『The Livelong Day』(2019)。器楽なら、Riverdance『Riverdance: The Music』(1995)。
豆知識
Riverdance(1994)は1994年4月のEurovisionソング・コンテストの幕間に7分のダンス・パフォーマンスとして初演されたのが最初。観客の反応が異常に大きく、急遽フル・ステージ・ショーに発展した。アイリッシュ・パブ文化(夜にミュージシャンが集まって自由に演奏する「セッション」)は1960年代以降、世界中の都市に広がった、ローカル文化の輸出成功例。
