2026年4月5日

ヴェイパーウェイヴはなぜ再発見されたのか

2011年のミームから、2020年代の批評対象へ

4分で読めます

エレクトロニック

1枚のアルバムから始まった

2011年、Vektroid という覆面プロデューサーが、Macintosh Plus 名義で『Floral Shoppe』というアルバムをBandcampに無料公開した。

中身は奇妙だった。1980年代のソフトロック(ダイアナ・ロスやリチャード・サンダーソン)を、1/2 の速度に落として、リバーブを浴びせるだけ。「これって音楽?」という反応が、Tumblr のアートクラスタで先に広まった。「冗談として」流行した最初のヴェイパーウェイヴだ。

「冗談として」流行した音響

下の曲が、その代表トラック。タイトル『リサフランク420 / 現代のコンピュー』(英訳: Lisa Frank 420 / Modern Computing) という、当時のインターネット感覚そのままの命名規則。

90年代のショッピングモール、企業ジャズ、CMの背景音楽、PC のシステム音。それらを引き伸ばし、リバーブで霞ませる。なぜそれが「音楽」になったのか? 当時は誰もうまく説明できなかった。皮肉な美学のひとつでしかなかった。

2010年代後半、意味が反転する

2010年代後半、ヴェイパーウェイヴは「冗談」の地位を失う。グローバル資本主義への失望、ノスタルジア産業の高度化、ローファイ・ヒップホップの定番化。これらを背景に、ヴェイパーウェイヴが描く「失われた未来」が、不気味に現実味を帯びた。

派生形が生まれる: フューチャー・ファンク(過去の日本シティポップを高速化)、モールソフト(空っぽのショッピングモール環境音)、スラッシュウェイヴ(さらに減速、もはや形を留めない)。下の曲は フューチャー・ファンク の代表作。シティポップ・リバイバルとも繋がっている。

「失われた未来」を聴くための装置

再発見されたヴェイパーウェイヴは、「失われた未来」を聴くための装置になった。それはサイケデリックロックが60年代に対してそうであったような、「現在から逃れるための音響」だった。

「冗談」だったものが、いつの間にか「批評対象」になっている。これはネット文化全般に起きていることでもある。

この記事のサウンド

記事一覧へ戻る