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ラテン・カリブ

シエレニョ

Sierreño

モチカワイ(シナロア)、ソノラ、ロサンゼルス / メキシコ / アメリカ合衆国 / 中南米・カリブ · 2010年〜

別名: Sierreño acústico / Corridos sierreños

シナロア/ソノラ山岳部の三人組アコースティック編成——アコースティック・ギター+レキント+トゥバ——による、コリードス・トゥンバドスの直系の親。

どんな音か

シエレニョは、シナロア州とソノラ州の山岳部(シエラ)を出自にする、アコースティックな三人組編成のノルテーニョ派生ジャンルだ。編成は徹底的にミニマルで、12弦のアコースティック・ギター(バホ・キント)、高音のレキント、そして低音のトゥバ(スーザフォン)の三人だけで完結する。ドラムセットもキーボードも使わない。テンポは95-115BPMの中低速、拍子はコリードの2/4か、より跳ねる3/4のワルツ形式。歌詞はコリード(物語詩)の語り形式を守り、麻薬密売、山岳部の生活、恋愛、家族への忠誠、時に暴力を扱う。歌唱は素朴で、ノルテーニョより鼻にかかった発声、そして曲の合間にトゥバの走句(グラート)がジャズのウォーキング・ベースのように主張する。録音は乾いた質感を優先し、コリードス・トゥンバドスに繋がる音の骨格がすでにここに揃っている。

生まれた背景

決定的な起点は2013年結成のロサンゼルス拠点レーベルRancho Humildeと、シナロア州モチカワイ(Villa Ángel Flores)出身のシンガーAriel Camacho(1992-2015)だった。Ariel Camachoはトリオ「Los Plebes del Rancho」を率いて、伝統的ノルテーニョの物語形式を、ドラムのない三人組アコースティック編成でやり直した——これが「シエレニョ」の音の骨格になった。2014年のシングル『El Karma』が米国内のメキシコ系コミュニティで爆発的にヒット、続く2015年『Hablemos』でジャンルの様式が確立された。しかし同年2月25日、Ariel Camachoはシナロア州で交通事故により22歳で死去、その若すぎる死がシエレニョの神話性を決定づけた。Ariel Camacho死後、次世代の中心となったのがシナロア州カマヨア出身のJunior H(1999-)で、彼が2019年から鳴らし始めた「Sad Boyz」路線が、次のジャンルであるコリードス・トゥンバドスへの直接の橋になった。

聴きどころ

ドラムが無いことが最大の特徴だ。三人だけの編成で、しかもテンポは中低速——にもかかわらず、トゥバとバホ・キントの掛け合いが十分にリズムを推進する。Ariel Camachoの『El Karma』を聴くと、トゥバが「ボン、ボン」と刻む2/4の1拍目と3拍目だけで、体が自然に揺れる仕組みが理解できる。歌唱はノルテーニョより鼻にかかり、ラップに近い語りのフロウを持つ——これが後のコリードス・トゥンバドスに直結する要素だ。Junior Hの『Sad Boyz』は、同じ編成でどれほど鬱屈したトーンまで出せるかを示す実例で、シエレニョが単なる「明るいコリード」ではないことが分かる。

発展

Ariel Camacho死後、Rancho Humildeは同じシエレニョ路線でGerardo Ortíz、Los Plebes del Rancho de Ariel Camacho(彼の元バンド)、そして2015年結成のフロリダ出身Ulices Chaidez y Sus Plebesを送り出した。決定的な次世代の担い手は、シナロア州カマヨア出身のJunior H(1999-)で、彼が2019年から鳴らし始めた「Sad Boyz」路線——シエレニョのアコースティック編成に、鬱屈と孤独を歌う低いトーンを乗せる——が、次のジャンルであるコリードス・トゥンバドスへの直接の橋になった。Peso Pluma、Natanael Cano、Fuerza Regidaがすべてシエレニョの三人組編成を出発点にしていることは、コリードス・トゥンバドスがトラップ・ビートを取っ払うと即座にシエレニョに戻る、という事実を証明している。

出来事

  • 2013: Rancho Humildeレーベル設立
  • 2014: Ariel Camacho『El Karma』
  • 2015年2月: Ariel Camacho交通事故死
  • 2019: Junior H『Sad Boyz』登場
  • 2023: Peso Plumaを含む世代のBillboard進出

派生・影響

伝統ノルテーニョから派生し、コリードス・トゥンバドスの直接の親元となった。ドラムと808を足せばコリードス・トゥンバドス、外せばシエレニョ、という関係が2020年代の若手世代の中で成立している。

音楽的特徴

楽器アコースティック・バホ・キント(12弦ギター)、レキント(高音ギター)、トゥバ(低音管)、ボーカル

リズムコリードの2/4、ワルツ3/4、テンポ95-115BPM、ドラム無し

代表アーティスト

  • Ariel Camachoメキシコ · 2013年〜2015
  • Eslabón Armadoアメリカ合衆国 · 2017年〜
  • Junior Hメキシコ · 2017年〜

代表曲・古典

代表曲・現在

日本との関係

日本での認知はほぼゼロだが、Ariel Camachoの若すぎる死は英語圏の音楽メディアでも取り上げられ、日本のラテン音楽好きの一部にも届いた。TikTokの若年層向けアルゴリズムを通じて、Junior HやEslabón ArmadoのアコースティックなSad Boyz系トラックが日本のZ世代の一部にも届き始めている。2020年代半ば以降、日本のフェスのラテン系ステージでシエレニョ系のミュージシャンの出演も実現し始めている。

初めて聴くなら

最初はAriel Camachoの『El Karma』(2014)——シエレニョの原型がこの一曲に完璧に収まっている。次に彼の遺作『Hablemos』(2015)、そしてJunior H『Sad Boyz』(2020)。Eslabón Armadoの『Ella バイラ Sola』(2023、Peso Pluma共演)は、シエレニョが世界的なポップに開かれた瞬間の記録だ。屋外のドライブ、あるいはヘッドホンで夜に一人、が向いている——シエレニョは静かな音楽で、大音量で人と一緒に踊るバンダとは対極にある。

豆知識

Rancho Humildeの創設者ヘスス・イグナシオ・ペレス=マレーラは、レーベル設立時にラテン音楽業界からほぼ完全に無視されていた。彼はロサンゼルスのメキシコ系移民の若手を集めて、シナロア/ソノラ・スタイルのアコースティック・トリオを大量に録音・配信することで、10年で業界の勢力図を書き換えた。Ariel Camachoの死後、彼の元バンド「Los Plebes del Rancho de Ariel Camacho」は名前を変えずに現在も活動を続けており、これは死者への追悼の意味を持つ稀な事例だ。Junior Hはメキシコアメリカ合衆国両国で「Sad Boy Corrido」(悲しいコリード少年)の代名詞となり、彼の物憂げな公演スタイルは意図的に演出されている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1880年代2010年代シエレニョシエレニョノルテーニョノルテーニョコリードス・トゥンバドスコリードス・トゥンバドス凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
シエレニョを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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