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伝統・民族

スイス民俗音楽

Schweizer Volksmusik

シュヴィーツ / ルツェルン(内スイス) / スイス / アルプス · 1836年〜

別名: Ländler music / Innerschweizer Volksmusik

シュヴィーツェルオルゲリ(小型ボタン式アコーディオン)を核にした、スイス中央部のダンス音楽伝統。

どんな音か

スイス民俗音楽の心臓はシュヴィーツェルオルゲリ(Schwyzerörgeli)という手のひらサイズのボタン式アコーディオンで、1836年頃にシュヴィーツ州の楽器職人によって発達した。編成はシュヴィーツェルオルゲリ2〜3台、コントラバス、時にクラリネットあるいはアルプホルンで、演奏される曲種はスイス・スタイルのワルツ(Ländler)、ポルカ、シュニッツェルバンク(即興替え歌)、そしてマルシュ(行進曲)だ。テンポは中庸、装飾音は控えめで、旋律の主役はオルゲリ奏者、伴奏の低音を弾くコントラバス奏者(バッスライ)が土台を作る。ヨーデルと同一の文化圏で共存し、実際には『Ländler mit アルプス・ヨーデル』(ヨーデル入りのレンドラー)が最も本格的な様式とされている。

生まれた背景

シュヴィーツェルオルゲリはウィーン式アコーディオンを原型に、1836年頃にシュヴィーツ州の楽器職人によって手のひらサイズに再設計された。従来の大型ウィーン式アコーディオンを農民の家庭や山小屋に持ち込めるようにする実用的な発明で、以降内スイス(Innerschweiz、シュヴィーツ・ウーリ・ルツェルン・ニトヴァルデン・オプヴァルデンの5州)の週末ダンスと家庭でのStubete(小規模な音楽会)の中心楽器になった。国民国家スイスが19世紀後半に自国の農村文化を象徴として持ち上げた時期に、アルペン・トラッハトを着た演奏家たちが国民音楽として制度化された。1920年代のレコードとラジオが民俗音楽を全国市場に拡張し、1950年代のSRFラジオ民俗音楽番組が国民的定着を果たした。

聴きどころ

まずシュヴィーツェルオルゲリの音色に耳を慣らしてほしい。ボタン式アコーディオンの中でも独特に軽く跳ねる音で、ウィーン式より高音寄り、フランスバル・ミュゼットより装飾が控えめで、この楽器のためだけに書かれた曲種がスイス・スタイル・ワルツ(Ländler)だ。3/4のリズムはウィンナ・ワルツより跳ねが強く、2小節目の3拍目に微妙な間(たわみ)が入るのが特徴で、これがない演奏は「よそ者の演奏」と地元では言われる。次にコントラバスの役割で、和音伴奏はほぼせず、根音と5度を交互に弾く「Wumm-Ta-Ta」パターンでダンスの足取りを支える。Nino Schmidの録音はこの土台構造が最も清潔に聴ける。

発展

20世紀半ばにはKapelle(楽団)単位で地方巡業する形態が確立し、Nino Schmid(1935-2012)率いるKapelleがラジオRadio SRF 1のダンス番組を通じて全国的人気を得た。1980年代以降はKapelle Carlo Brunnerが世代の代表格となり、レコード販売と国内ツアーで市場を維持した。2010年代にはStubete Gäng(2016-)のように、シュヴィーツェルオルゲリとヒップホップ・ビートを組み合わせる若い世代の実験も現れた。

出来事

  • 1836年頃: シュヴィーツェルオルゲリ発明
  • 1920年代: レコードとラジオが民俗音楽を全国市場に拡張
  • 1950年代: SRFラジオの民俗音楽番組が国民的定着
  • 2016年: Stubete Gäng結成、伝統に若年層の関心を戻す

派生・影響

アルプス・ヨーデルと兄弟関係(共演がほぼ常態)。オーストリアのShrammelmusik、南ドイツのVolksmusikと様式的に近い。

音楽的特徴

楽器シュヴィーツェルオルゲリ、コントラバス、クラリネット、アルプホルン、時にヴァイオリン

リズム3/4のLändler(スイス・ワルツ)、2/4のポルカ、4/4のマルシュを一夜の踊りに組み込む

代表アーティスト

  • Nino Schmidスイス · 1955年〜2012
  • Kapelle Carlo Brunnerスイス · 1985年〜
  • Stubete Gängスイス · 2016年〜

代表曲・古典

代表曲・現在

日本との関係

日本ではスイス民俗音楽そのものの認知は薄いが、ヨーデルと共に「スイスの牧歌的風景」の音として旅番組やCMで頻繁に流れてきた。NHK BSプレミアム『世界ふれあい街歩き』のスイス回、日本コカ・コーラの1990年代のCMなどで、シュヴィーツェルオルゲリの音が「アルプスの音」として定着している。国内で本格的にシュヴィーツェルオルゲリを演奏する奏者は数名しかいないが、佐藤芳明(アコーディオン奏者)がスイス留学中に習得し帰国後の公演で紹介している。

初めて聴くなら

入り口はKapelle Carlo Brunnerの『Rigi ポルカ』(1992)、シュヴィーツェルオルゲリとクラリネットの絡み合いが最も明快な形で聴ける。次にNino Schmidの『Muotathaler Ländler』(1975)、より伝統的なLändlerの型として。若い世代のアプローチが気になるならStubete Gängの『Chum mit mir』(2019)、伝統楽器がヒップホップ・ビートの上に乗った瞬間の違和感と親近感を体感できる。昼間、明るい部屋で、ダンスが自然と体に来る音量で鳴らすのが向いている。

豆知識

シュヴィーツェルオルゲリの製作は現在もほぼ手作業で、完成品の待機リストは短くても2年、Aegler(ローゼンベルク)、Salvisberg(バーゼル)といった老舗工房の楽器は5年待ちが常態だ。価格は6000-15000スイスフラン(約100-250万円)、ボタン配列は独特で、右手55ボタン(内包音6列)、左手18ボタン(和音)という設計はこの楽器固有のものだ。スイス連邦ヨーデル協会は民俗音楽の家系血統書のような制度を持ち、地域様式ごとの認定審査が3年に一度行われている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1500年代1830年代スイス民俗音楽スイス民俗音楽アルプス・ヨーデルアルプス・ヨーデル凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
スイス民俗音楽を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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