カントゥ・ア・テノーレ
サルデーニャの男声4部即興多声合唱。
どんな音か
カントゥ・ア・テノーレは4人の男性による無伴奏合唱で、楽器を一切使わない。最も低い声部(ベース・バス)が土台となる、ほぼ一音に近い音を出し続け、その上に中音域の3つの声部が異なるメロディを重ねる。各声部の音程は西洋的な和声ではなく、微妙に平行していたり、時には衝突したりする。音色は力強く、鼻腔をよく使い、時にはハスキーな質感も含まれる。全体として、土が鳴っているような、大地的な響きが特徴。
生まれた背景
カントゥ・ア・テノーレは、サルデーニャの羊飼いたちの労働歌から発展した。共同作業の中で、複数の声が自然と重なる過程で、この形式が確立されたと考えられている。中世以来、サルデーニャは地理的に隔離されていたため、この音楽形式が、ほぼ原型のまま保存されてきた。20世紀後半のフォーク・リバイバルで再び脚光を浴び、2001年にユネスコの人類無形遺産に認定された。
聴きどころ
最初に、ベース声部の響きをしっかり聴き取ること。その単調な音が、上の3つの声部の複雑性をどのように支えているかが理解できると、音楽全体が鮮明に聞こえてくる。各声部がどこで呼吸するか、音程をどこで変えるかといった、音を作り手の個性が聴き取られるべき点。
発展
1970年代に民族学的注目を集めTenores di Bittiが世界的に知られた。Peter GabrielのRealWorldがアルバム発表。2005年ユネスコ無形文化遺産登録。
出来事
- 1996: Tenores di Bitti『S'amore'e mama』
- 2005: ユネスコ無形文化遺産登録
派生・影響
サルデーニャのもう一つの伝統Cantu a Chiterraと並ぶ国民音楽の柱。
音楽的特徴
楽器声(無伴奏4人組)
リズムBassu低音ドローン、自由拍、母音シラブル
代表アーティスト
- Tenores di Bitti
代表曲
- S'amore 'e Mama — Tenores di Bitti (1996)
日本との関係
カントゥ・ア・テノーレは、日本では世界民族音楽の学術的関心層にのみ知られている。ユネスコ認定による知名度上昇で、徐々に認識が広がっているが、一般的なリスナーへの到達はまだ限定的。
初めて聴くなら
Tenores di Bitti『S'amore 'e Mama』(1996年)。この演奏は、カントゥ・ア・テノーレの典型を示しており、4つの声の関係性が最も明確に聴き取れる。夜間に、他の音がない環境で聴くことが必須。
豆知識
カントゥ・ア・テノーレの4つの声部には、固有の呼称がある。最低音声が全体を支え、各地域ごとに声部の役割と音程が微妙に異なる。この形式は、羊飼いたちの生活環境と言語体系が、どのように音楽的構造に反映されるかの、具体的な事例として、音楽人類学の重要な教科書になっている。
