ピッツィカ
プーリア・サレント地方のタランテッラ変種。
どんな音か
生まれた背景
ピッツィカはプーリア州サレント半島(イタリアの「かかと」部分)に伝わるタランテッラの地方変種で、もともとは「タランチュラに刺された人間を踊らせて毒を出す」という民間信仰と結びついた「タランティズモ(tarantismo)」の儀礼音楽だった。この信仰は17〜18世紀に記録されており、医師や聖職者が「女性ヒステリー」と解釈した一方で、研究者のエルネスト・デ・マルティーノは1961年の著作「南方の地」でこれを抑圧された女性の感情の出口として分析した。1980〜90年代の再評価運動(ネオタランティズモ)の中でEugenio BennatoやOfficina Zoéが音楽の復元に取り組み、現在は毎年8月にガラトーナで行われる「ラ・ノッテ・デッラ・タランタ」フェスティバルが数万人を集めるイベントになっている。
聴きどころ
「Lu Rusciu de lu Mare」ではタンバッレロの最初の1小節だけでリズムの「前のめり感」がつかめる——4分音符の裏にアクセントがあり、身体を前に引っ張られる感覚だ。バイオリンの旋律は5〜8小節の短いフレーズを繰り返しながら微妙に変形し、繰り返しの中で引き込まれていく。踊りの場合、回転の速度がタンバッレロのテンポと連動するため、音楽を聴きながら「これで回れるか」を想像すると体感が変わる。
発展
1990年代以降La Notte della Tarantaを核に大衆復興。Officina Zoé、Aramirèが現代化した。世界フォーク祭にも招かれる。
出来事
- 1959: 民族学的調査
- 1998: La Notte della Taranta初開催
- 2003: 国際的拡大
派生・影響
Tammurriata、Saltarelloと姉妹関係。
音楽的特徴
楽器タンブレッロ、ヴァイオリン、ディアトニック・アコーディオン、声
リズム6/8の急速反復、タンブレッロ連打
代表アーティスト
- Eugenio Bennato
- Officina Zoé
代表曲
- Lu Rusciu de lu Mare — Officina Zoé (1996)
日本との関係
初めて聴くなら
Officina Zoéの「Lu Rusciu de lu Mare」(1996)から始め、次にラ・ノッテ・デッラ・タランタのライブ映像を観ると、音楽とダンスの一体感がわかる。Eugenio Bennatoの「Taranta Power」アルバムは現代的な編成でピッツィカを聴ける入口だ。
豆知識
タランティズモの「蜘蛛の毒」は医学的には存在しないが、儀礼の機能としては実在していた——農作業で抑圧された農村女性が年に一度「発作」を許され、音楽と踊りで数日間「治療」されるという社会的な装置として機能していた。エルネスト・デ・マルティーノはこれを「文化的な保護膜」と呼んだ。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- 伝統・民族カントゥ・ア・テノーレ
- 伝統・民族タンムリアータ
