伝統・民族

ピッツィカ

Pizzica

サレント(レッチェ周辺) / イタリア / 南欧 · 1500年〜

プーリア・サレント地方のタランテッラ変種。

どんな音か

テンポは速く(BPM140〜180程度)、2拍子系で前のめりに突き進む。タンバリン(タンバッレロ)が中心の打楽器で、シャリシャリとした金属音が鳴り続ける。バイオリンが主旋律を担い、アコーデオンまたはオルガネットが和音を添える。歌がある場合は南イタリアの方言(サレント語)で短いフレーズが繰り返される。ダンスは2人が向かい合い、相手を挑発するように手と目線を使いながら回転する——トランス状態に近い反復の中で身体が音楽に飲み込まれていく感覚がある。Officina Zoéの「Lu Rusciu de lu Mare」(1996)は現代のピッツィカ復興の出発点とされる録音だ。

生まれた背景

ピッツィカはプーリア州サレント半島(イタリアの「かかと」部分)に伝わるタランテッラの地方変種で、もともとは「タランチュラに刺された人間を踊らせて毒を出す」という民間信仰と結びついた「タランティズモ(tarantismo)」の儀礼音楽だった。この信仰は17〜18世紀に記録されており、医師や聖職者が「女性ヒステリー」と解釈した一方で、研究者のエルネスト・デ・マルティーノは1961年の著作「南方の地」でこれを抑圧された女性の感情の出口として分析した。1980〜90年代の再評価運動(ネオタランティズモ)の中でEugenio BennatoやOfficina Zoéが音楽の復元に取り組み、現在は毎年8月にガラトーナで行われる「ラ・ノッテ・デッラ・タランタ」フェスティバルが数万人を集めるイベントになっている。

聴きどころ

「Lu Rusciu de lu Mare」ではタンバッレロの最初の1小節だけでリズムの「前のめり感」がつかめる——4分音符の裏にアクセントがあり、身体を前に引っ張られる感覚だ。バイオリンの旋律は5〜8小節の短いフレーズを繰り返しながら微妙に変形し、繰り返しの中で引き込まれていく。踊りの場合、回転の速度がタンバッレロのテンポと連動するため、音楽を聴きながら「これで回れるか」を想像すると体感が変わる。

発展

1990年代以降La Notte della Tarantaを核に大衆復興。Officina Zoé、Aramirèが現代化した。世界フォーク祭にも招かれる。

出来事

  • 1959: 民族学的調査
  • 1998: La Notte della Taranta初開催
  • 2003: 国際的拡大

派生・影響

Tammurriata、Saltarelloと姉妹関係。

音楽的特徴

楽器タンブレッロ、ヴァイオリン、ディアトニック・アコーディオン、声

リズム6/8の急速反復、タンブレッロ連打

代表アーティスト

  • Eugenio Bennatoイタリア · 1970年〜
  • Officina Zoéイタリア · 1993年〜

代表曲

日本との関係

イタリアフォーク・リバイバルに関心のある音楽ファンの間ではラ・ノッテ・デッラ・タランタの映像で知られているが、日本ピッツィカを演奏するグループはごく少数だ。タランティズモの文化人類学的な側面(女性の身体と儀礼の関係)への関心から、ジェンダー研究の文脈で言及されることもある。

初めて聴くなら

Officina Zoéの「Lu Rusciu de lu Mare」(1996)から始め、次にラ・ノッテ・デッラ・タランタのライブ映像を観ると、音楽とダンスの一体感がわかる。Eugenio Bennatoの「Taranta Power」アルバムは現代的な編成でピッツィカを聴ける入口だ。

豆知識

タランティズモの「蜘蛛の毒」は医学的には存在しないが、儀礼の機能としては実在していた——農作業で抑圧された農村女性が年に一度「発作」を許され、音楽と踊りで数日間「治療」されるという社会的な装置として機能していた。エルネスト・デ・マルティーノはこれを「文化的な保護膜」と呼んだ。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1500年代ピッツィカピッツィカタランテッラタランテッラ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ピッツィカを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

イタリア · 1500年前後 (±25年)

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