伝統・民族

ブィリーナ

Russian Bylina

オネガ湖周辺 / ロシア / 東ヨーロッパ · 1000年〜

ロシアの口承叙事詩唱。

どんな音か

ブィリーナは語りと歌の境界にある。詩行を一定の旋律パターンにのせて歌うのだが、旋律は繰り返しが基本で、何十行にもわたる叙事詩を同じメロディを少しずつ変えながら吟じ続ける。伴奏は基本的に使わず、歌い手(スカジーチェリ)の生の声だけが広い空間に響く。声の質は訓練された声楽ではなく、話し声に近い自然な発声で、長い詩を語るための持続力と朗々とした強さが求められる。リズムは叙事詩の詩格(トロヘー)に従い、強弱の繰り返しが一定の波を作る。

生まれた背景

ブィリーナはキエフ・ルーシ時代(9〜13世紀)の英雄伝説を核に、その後の世紀を経て形成されてきた。イリヤー・ムーロメツやドブルィニャ・ニキーティチといった「ボガティル(英雄)」が主人公となる話が多い。14〜17世紀のモスクワ公国時代にも語り継がれたが、宮廷よりも農村共同体、特に北ロシアの辺境地帯(オネガ湖周辺、アルハンゲルスク地方)でより良く保存された。19世紀後半に民族音楽学者パーヴェル・リビニコフが現地で採集し、キルシャ・ダニーロフらの編纂物とともに記録が進んだ。20世紀に入ると語り部の世代交代が途絶え、マルファ・クリューコワのような歌い手の録音が貴重な資料となった。

聴きどころ

「Ilya Muromets bylina — Marfa Kryukova (1937)」では、同じ旋律パターンが繰り返される中でどこに変化が生まれるかを追う。言葉の意味はわからなくても、強勢の置かれる音節のたびに声がわずかに強くなるリズムが聴き取れるはずだ。録音状態は時代なりに粗いが、それが却って声の現場感を高めている。

発展

Rimsky-Korsakov等の国民楽派作曲家が題材化。Stravinsky『火の鳥』にも影響。20世紀末にはほぼ生証言が絶え記録のみとなった。

出来事

  • 1861: Rybnikov採集開始
  • 1908: Marfa Kryukova記録
  • 1975: 最後の世代奏者死去

派生・影響

Russian国民楽派、Stravinsky作品の精神的基盤。

音楽的特徴

楽器声(無伴奏)、Gusli(古弦楽器)

リズム自由拍朗唱、トニック反復、3行スタンザ

代表アーティスト

  • Marfa Kryukovaロシア · 1900年〜1954

代表曲

日本との関係

ブィリーナ日本で直接紹介される機会はほとんどない。ロシア文学・民俗学の研究者や、スラヴ文化に関心を持つ一部の人を除いては、CD や公演でも接触しにくい領域だ。

初めて聴くなら

「Ilya Muromets bylina — Marfa Kryukova (1937)」一択。録音は古く音質は粗いが、ブィリーナという形式が何であるかを最も直截に体験できる。まず3〜5分聴いて、語りと歌の境界がどこにあるかを自問してみるといい。

豆知識

ブィリーナの「bylina」という言葉は「あったこと」を意味するロシア語の動詞に由来し、フィクションではなく歴史的事実だと語り手が信じていたことを示唆する。リムスキー=コルサコフやバラキレフらロシア五人組は採譜されたブィリーナの旋律を交響詩や歌劇の素材に使った。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1000年代1860年代ブィリーナブィリーナチャストゥーシュカチャストゥーシュカ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ブィリーナを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

ロシア · 1000年前後 (±25年)

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