伝統・民族

ラージャスターン民謡

Rajasthani Folk Music

ラージャスターン州 / インド / 南アジア · 1500年〜

別名: Manganiyar / Langa

ラージャスターン砂漠地帯のマンガニヤール・ランガが伝える民謡。

どんな音か

ラージャスターン州の砂漠地帯から来る音は、乾いた空気にのびる声と弦の倍音が特徴的だ。カマーイチャという擦弦楽器はヴァイオリンより胴が大きく、共鳴弦を多数張るために弾いていない弦まで振動し、音の周囲に霞のような残響が漂う。ドーラクやダブルサイドのタブラが打つリズムは、祝祭の熱気を引き上げるためにだんだん速くなることが多い。マンガニヤール・コミュニティの歌い手は声を喉の奥から引き出すように張り、高い音域に達すると声帯がきしむような歪みが入る。これを技術的な欠点とはとらえず、感情の奥行きとして大切にする美意識がある。

生まれた背景

マンガニヤールとランガは、ラージャスターンのヒンドゥー教徒・ムスリム双方の豪族に仕えた世襲の音楽師カーストで、詩人・語り部・宴会の演者を兼ねていた。砂漠の隊商路が交わるこの地域には、イランやアフガニスタン、北インドの音楽が重なり、独自のスタイルが形成された。インド独立後、後援してきた藩王族が消えると音楽家たちは経済的な基盤を失ったが、1970〜80年代にルーツ音楽への再注目が起き、ユネスコや研究者が記録保全に動いた。現在は観光産業や国際フォークフェスティバルが主な舞台になっている。

聴きどころ

カマーイチャの音が鳴り始めたら、主旋律よりも周囲に漂う共鳴音に耳を向けてほしい。弦を弾いていないのに鳴り続けるその音が、この楽器の一番の個性だ。歌い手の声には、一つの音の中で上下にゆれるガマック(装飾音)が頻繁に入る。音程を正確に維持するのではなく、音をこねるように揺らすのが正式な技法で、その揺れの大きさが演奏者の力量を示す。

発展

1960年代以降、コムタ・プラサド・パンディトらの研究と、ラージャスターン政府文化局の保護で世界に知られるようになった。1980年代以降は欧州・米国のワールドミュージック・フェスティバルで頻繁に演奏され、Junoon・Coke Studio などポップ・コラボも進む。

出来事

  • 中世: マンガニヤール・ランガの宮廷起源。
  • 1956年: ラージャスターン州設立で文化政策。
  • 1985年: ロンドンWOMADでマンガニヤール公演。
  • 2010年: ルーパヤン・サンスタン(マンガニヤール文書館)拡充。
  • 2014年: 『マンガニヤール・セダクション』世界ツアー。

派生・影響

ラージャスターン民謡をベースとした映画歌(『パーヘリー』『デリー6』)、現代カマイチャ作品、世界各地のフォーク・フェスティバルでの紹介。

音楽的特徴

楽器カマイチャ、サーランギー、ドーラク、カルタル、ハルモニウム、声

リズムケヘルワー・ダドラなどの拍子、力強い砂漠の発声、即興的応答

代表アーティスト

  • マンガニヤール・コミュニティインド · 1960年〜

代表曲

日本との関係

ラージャスターン民謡日本で広く知られる機会は多くなかった。ただし映画「マンスーン・ウェディング」(2001年)やワールドミュージック専門店を通じて、インド音楽ファンの一部には届いていた。ヨガや瞑想の文脈でインド伝統音楽への関心が高まった2000〜2010年代には、CDや配信を通じて聴かれるようになっている。

初めて聴くなら

「Nimbuda — マンガニヤール・コミュニティ (1999)」は映画「Hum Dil De Chuke Sanam」で使われた曲で、砂漠の空気感と祝祭のリズムが同時に味わえる。まず声と打楽器の層を別々に追い、次に全体の熱量の上昇を感じてほしい。

豆知識

マンガニヤールとランガは宗教的には異なるコミュニティ(ヒンドゥー系と世俗ムスリム系)だが、同じ音楽の伝統を共有してきた。このこと自体がラージャスターンの複合文化の象徴として語られることが多い。ロンドンのバービカンセンターやパリのサル・プレイエルにも招かれており、ワールドミュージック文脈では比較的知名度が高い。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1500年代1900年代ラージャスターン民謡ラージャスターン民謡カールベリヤカールベリヤ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ラージャスターン民謡を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

インド · 1500年前後 (±25年)

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