宗教・霊歌

黒人霊歌

Negro Spirituals

南部プランテーション地帯 / アメリカ合衆国 / 北米 · 1700年〜

別名: African American Spirituals / Spirituals

アメリカ南部の奴隷制下でアフリカ系アメリカ人共同体が創出した宗教的民謡。

どんな音か

黒人霊歌は、アメリカ合衆国南部の奴隷制下でアフリカ系アメリカ合衆国人共同体が生み出した宗教的民謡。聖書の物語、解放への願い、苦しみ、希望を、コール・アンド・レスポンスや深い旋律で歌う。キリスト教の言葉を用いながら、奴隷化された人々の生存と抵抗の感情を秘めた音楽である。

生まれた背景

18世紀から19世紀にかけて、アフリカ由来の歌唱習慣とプロテスタント讃美歌が接触する中で形成された。南北戦争後、Fisk Jubilee Singersが霊歌を演奏会用に編曲して国内外で歌い、黒人教育機関の支援にもつなげた。後のゴスペルブルースソウルにも深い影響を与えた。

聴きどころ

旋律の美しさだけでなく、歌詞の二重性を聴く。モーセ、ヨルダン川、約束の地といった聖書の言葉は、信仰の希望であると同時に自由への暗号として響くことがある。合唱編曲では整った和声が目立つが、元には共同体の応答、身体のリズム、苦難の記憶がある。

発展

南北戦争後、フィスク・ジュビリー・シンガーズ(1871年結成)が編曲版を世界に紹介し、20世紀初頭にはハリー・バーレイ、ロザウェル・ジョンソンらが演奏会形式に編曲した。マハリア・ジャクソン世代を経て黒人ゴスペルへ発展、また公民権運動の歌(『We Shall Overcome』等)の母胎ともなった。

出来事

  • 1801: リチャード・アレン編『AME Hymnal』黒人讃美歌集発行
  • 1865: 奴隷解放宣言、ジュビリー精神高揚
  • 1871: フィスク・ジュビリー・シンガーズ世界公演
  • 1925: ロザウェル・ジョンソン『The Book of American Negro Spirituals』

派生・影響

Black Gospel、Blues、Soul、R&B、Jazz、公民権運動歌、ミュージカル『Porgy and Bess』など、20世紀アメリカ音楽全般の根源的源流。

音楽的特徴

楽器声、ハンドクラップ、フット・ストンピング、パッティング・ジューバ

リズムコール&レスポンス、ブルーノート、シンコペーション、リング・シャウト

代表アーティスト

  • Fisk Jubilee Singersアメリカ合衆国 · 1871年〜

代表曲

日本との関係

日本では合唱曲、英語教材、ゴスペル・クワイアの前史として知られている。「スウィング Low, Sweet Chariot」や「Deep River」は日本の合唱団にも歌われてきた。ただし美しい宗教曲としてだけ扱うと、奴隷制と人種差別の歴史を薄めてしまう。背景を踏まえて聴くことが大切である。

初めて聴くなら

入口は「スウィング Low, Sweet Chariot — Fisk Jubilee Singers (1909)」。霊歌が演奏会形式で広まった姿を知ることができる。解放の象徴を強く感じるなら「Go Down Moses」、静かな深さを味わうなら「Deep River」がよい。

豆知識

黒人霊歌という呼称は歴史的に使われてきたが、現在はAfrican American spiritualsなどの言い方も用いられる。名称には時代背景があるため、音楽の尊厳を保ちながら、差別語の歴史にも注意して扱う必要がある。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1700年代1890年代1930年代1950年代黒人霊歌黒人霊歌ブルースブルースブラック・ゴスペルブラック・ゴスペルソウルソウル凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
黒人霊歌を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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