ポップ

ミズラヒ音楽

Mizrahi Music

イスラエル / 中東 · 1948年〜

別名: Eastern Jewish music

中東・北アフリカ系ユダヤ人(ミズラヒーム)が現代イスラエルで形成した、アラブ・ペルシア・東地中海音楽を母体とする独自のポピュラー・ジャンル。

どんな音か

ミズラヒ音楽はアラビア音楽のマカーム音階、トルコやペルシャの装飾音法、ギリシャ・バルカンのリズムをヘブライ語またはアラビア語の歌詞と組み合わせる。1970〜80年代の初期はカセットテープで流通し、音像はシンプルなシンセとドラムマシンが多かった。現代のZehava Ben(ゼハヴァ・ベン)やEyal Golan(エヤル・ゴラン)の音楽は電子楽器を使いながらも、歌い手の声がアラブ音楽的な装飾と感情表現を前面に出す。ベースラインと踊りやすいリズム(多くは8分音符系)の上で、声が旋律を高い音域に持っていく瞬間が感情の頂点になる。

生まれた背景

1948年のイスラエル建国後、アラブ諸国からユダヤ人が移住する過程で、彼らが持ち込んだ音楽はアシュケナジ系(東欧系)主導のイスラエル文化の中で「アラブ音楽」として排除されることが多かった。1970年代にカセットテープが登場すると、正規のレコード会社に頼らなくても音楽を流通させることが可能になり、市場や路上販売を通じてミズラヒ音楽が急速に広まった。Zehava Ben「Tipat Mazal」(1991)はアラビア語の旋律をヘブライ語で歌い直したもので、ミズラヒ音楽イスラエルの主流に認知される転換点になった。

聴きどころ

Zehava Ben「Tipat Mazal」(1991)では、旋律の半音下降(マカームの特徴的な音型)が繰り返されるサビに注目してほしい。このわずかな半音の動きがアラブ音楽的な哀愁を生む。Eyal Golan「Yeshenah Eretz」(2005)は弦楽器とオーケストラを使った豪華な編成で、声の張り方が力強い。どちらも声が旋律の頂点に到達する瞬間が聴きどころ。

発展

1990年代にズハーヴァ・ベン、サリト・ハダド、エヤル・ゴラン、コブィ・ペレツが商業的成功を収め、メインストリーム化した。21世紀のオメル・アダム、エデン・ハッソンらの世代では、ヘブライ語ポップとアラブ古典の融合がイスラエル音楽の主流となった。

出来事

  • 1948: イスラエル建国とミズラヒーム移住
  • 1973: 「ハフラート・カセット」流通開始
  • 1991: ズハーヴァ・ベンがメインストリーム化
  • 2018: ミズラヒ音楽がイスラエル国家賞受賞

派生・影響

イラク・マカーム、イエメン伝統、モロッコ・グナワ、ペルシア古典、現代ヘブライ語ポップと深い交差。

音楽的特徴

楽器ウード、カヌーン、ダルブッカ、シンセ、ドラムマシン、声

リズムマカーム、4/4キックと中東拍子の融合、メリスマ歌唱

代表アーティスト

  • Zehava Benイスラエル · 1989年〜
  • Eyal Golanイスラエル · 1995年〜

代表曲

日本との関係

イスラエル音楽全般が日本で聴かれる機会はほぼなく、ミズラヒ音楽の認知は皆無に近い。中東音楽の愛好者がアラビア音楽の文脈でたどり着くことがまれにある程度。

初めて聴くなら

Zehava Ben「Tipat Mazal」(1991)から入ると、歌い手の声とマカーム旋律の両方が短時間で把握できる。Eyal Golan「Hagiva」(2005)はポップな入口として取っ付きやすく、テルアビブのクラブ文化との接続点も感じられる。

豆知識

ミズラヒ音楽イスラエルで長らく「第二のレコード市場」(カセット流通のみ)に留め置かれ、ラジオやテレビではほぼ流れなかった。1990年代以降に政治的な代表性が高まったミズラヒ系政党(シャス党)の台頭と並行して、文化的な承認も進んだ。現在ではミズラヒ音楽の歌手がイスラエルのチャート上位を占めることが珍しくなく、欧州系とアラブ系の境界を横断する独自のアイデンティティとして議論される。

影響・派生で結ばれたジャンル

ミズラヒ音楽を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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イスラエル · 1948年前後 (±25年)

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