ポップ
ミズラヒ・ポップ
Mizrahi Pop
イスラエル / 中東・北アフリカ · 1960年〜
別名: ミズラヒ・ポップ
イエメン・モロッコ・イラク系ユダヤ人の音楽伝統に根差したヘブライ語ポップ。1980年代まで「カセット音楽」と蔑まれたが、2010年代以降にイスラエル主流に。
どんな音か
ヘブライ語のボーカルに、ウード(中東のリュート)、ダルブッカ、カヌーン(72弦の箱型琴)の音色が絡む。コード進行は西洋ポップだが、メロディのうねりは中東音楽のマカーム(旋法)由来で、四分音に近い微細な音程の揺れがしばしば顔を出す。ドラムは現代的なポップビートだが、ハイハットの代わりにダルブッカの細かい連打が入ることが多い。歌い方は喉を強く震わせる装飾的な歌唱で、サビでは一気に張り上げる。
生まれた背景
ミズラヒとは「東方の」を意味するヘブライ語で、イエメン、モロッコ、イラク、イラン、リビアなどアラブ・イスラム圏から1950年代にイスラエルへ移住してきたユダヤ人を指す。彼らは建国期のイスラエル社会では二級市民扱いされ、その音楽もテレビ・ラジオから締め出された。1970〜80年代、テルアビブ南部やバスターミナルの周辺でカセットテープが手売りされ、「カセット音楽」「中央バスステーションの音楽」と蔑称された。それが2000年代以降に完全に逆転し、いまやイスラエル・ポップ全体の主流になった。
聴きどころ
歌のメリスマ(一音節を複数の音に伸ばす装飾)に耳を傾けてほしい。アラブ歌唱の伝統が、ヘブライ語に乗ることで生まれる独特の節回しがある。プロダクションも、ヨーロッパ系イスラエル人(アシュケナージ)が作ってきた西欧ポップとはまったく違う質感で、低音は薄めで中高域に密集する。Eyal Golanはやや演歌的な情感、Omer Adamは派手なクラブ寄り、Osher Cohenはより伝統に近い、と歌手によって振れ幅が大きいので聴き比べが楽しい。
代表アーティスト
- Sarit Hadadイスラエル · 1994年〜
- Eyal Golanイスラエル · 1995年〜
- Omer Adamイスラエル · 2009年〜
代表曲
תל אביב — Omer Adam (2017)

יום הולדת — Eyal Golan (2010)
日本との関係
日本とのつながりは限定的だが、東京の中東料理店(特にイスラエル系のフムス専門店)でBGMとして流れていることがある。日本のクラブシーンでは、ロシア/中東系のディアスポラDJがミズラヒ・ポップのエディットを持ち込むケースもある。直接的な日本のアーティストとの接点は今のところ薄いが、Idan Raichelのプロジェクトのように世界音楽として紹介された例があり、Etyhno系のリスナーには既知。
初めて聴くなら
Omer Adam『Tel Aviv』、これは比較的西欧ポップに近いので入りやすい。次にEyal Golan『Yom Holedet』、結婚式や祝祭で必ずかかる定番。三曲目はSarit Hadadの古典『Light a Candle』、ユーロビジョンで歌われた一曲で、彼女のメリスマがミズラヒ歌唱の真髄を示している。週末の昼下がり、地中海料理を作りながら台所で流すのが似合う。
豆知識
ミズラヒ・ポップは長らく「真のイスラエル音楽ではない」と扱われていたが、2010年代に大物アシュケナージ系シンガーがミズラヒ歌手とコラボし始め、潮目が変わった。決定打となったのは2018年のユーロビジョン優勝者ネタ・バルジライ、彼女はイエメン系ユダヤ人の家系で、『Toy』のパフォーマンスは中東的なヴォーカリゼーションを世界に見せつけた。イスラエルの公共空間で長年BGMの座を独占してきた西欧ポップが、今では結婚式でも軍隊式典でもミズラヒ系に置き換わっている。
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
イスラエル · 1960年前後 (±25年)
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