微分音音楽
12平均律の半音より小さな音程(微分音)を体系的に使用する音楽。
どんな音か
微分音音楽は、ピアノの鍵盤の間に存在する音程を使う。半音の半分(四分音)から、100分の1半音(セント)単位で細かく設定した音程まで、扱い方は作曲家によって全く異なる。ハリー・パーチは西洋の12平均律を拒否し、43音分割の純正律に基づく自作楽器群を作った。「Castor and Pollux」(1952)ではその楽器群が奏でるうねりが微妙に「外れた」感覚を与えるが、慣れると独自のハーモニーとして聴こえ始める。ジェルジ・リゲティ「ロンターノ」(1967)は通常のオーケストラで演奏されるが、弦楽器奏者がそれぞれわずかにピッチをずらしながら同じ音を保持し、うねりのある音の塊を作る。
生まれた背景
聴きどころ
ベン・ジョンストン「弦楽四重奏曲第4番」(1973)では、四重奏の4本の弦楽器がそれぞれわずかに異なる音程を弾き続ける。その「ずれ」が生む倍音の干渉(うなり)に耳を向けると、通常のクラシックでは聴けない音の揺らぎが聞こえてくる。リゲティ「ロンターノ」は大きなオーケストラが全員でひとつの音塊を作るが、その音塊の輪郭がぼんやりしていて焦点が定まらない感覚が、微分音的ピッチ処理から来ている。
発展
アロイス・ハーバ「四分音弦楽四重奏曲」(1924)、ヴィシネグラツキ「ピアノ協奏曲」、ハリー・パーチが43音平均律を採用し独自楽器を製作(1930年代)、ベン・ジョンストンの純正律弦楽四重奏曲シリーズ(10曲、1959〜1995)、ジェイムズ・テニーの近代純正律理論などが続いた。
出来事
- 1924: アロイス・ハーバ「四分音弦楽四重奏曲」
- 1930年代: ハリー・パーチ、43音平均律楽器を製作
- 1959: ベン・ジョンストン「弦楽四重奏曲第1番」(純正律)
- 1973: ジェルヴァシオ・グリゼー「Périodes」
派生・影響
スペクトル楽派、ジェルヴァシオ・グリゼーらが微分音と倍音列を統合し、現代の電子音律実験、純正律のリヴァイヴァルへ繋がっている。
音楽的特徴
楽器微分音楽器、調整楽器、電子音響
リズム微分音音律、純正律、自然倍音列
代表アーティスト
- ハリー・パーチ
- ジェルジ・リゲティ
- ベン・ジョンストン
- ラ・モンテ・ヤング
- ジェルヴァシオ・グリゼー
代表曲
- Castor and Pollux — ハリー・パーチ (1952)
- Sonata for Microtonal Piano — ベン・ジョンストン (1965)
- 弦楽四重奏曲第2番(四分音) (1924)
- ロンターノ — ジェルジ・リゲティ (1967)
- 弦楽四重奏曲第4番 — ベン・ジョンストン (1973)
日本との関係
日本の現代音楽作曲家の中には微分音を使う作品を書く者もあるが、ジャンルとしての認知はない。武満徹はスペクトル音楽に触れていたが、微分音を体系的に使うには至らなかった。現代音楽愛好者の間では知られており、吉松隆など一部の作曲家が微分音への言及を残している。
初めて聴くなら
まずリゲティ「ロンターノ」から入るのが最もアクセスしやすい。通常のオーケストラで演奏されるため「変な音程の楽器」は出てこないが、音の塊が揺らめく感覚は十分に体験できる。次にハリー・パーチ「Castor and Pollux」を聴くと、微分音を使うために楽器から作り直すという徹底した姿勢が音に出ている。
豆知識
ハリー・パーチは作曲家であると同時に楽器製作者、理論家でもあり、「Bitter Music」という日記形式の著作に放浪生活の記録を残している。彼の楽器群(クラウドチェンバー・ボウルズ、ベース・マリンバなど)は現在カリフォルニア大学サンディエゴ校に保存されており、演奏できる状態を維持している。ラ・モンテ・ヤングは純正律の倍音を長時間持続させるドローン音楽を作ったが、これも微分音的な倍音の聴取体験を引き出す手法の一つ。
