無調音楽
調的中心を持たない音楽。1908年頃のシェーンベルクの「自由な無調」期に始まる。
どんな音か
無調音楽は、長調や短調の中心を持たず、どの音にも帰着しない緊張を保つ音楽。シェーンベルクの初期無調作品では、短い動機が鋭く変形し、和音は解決せずに不安を残す。歌や管弦楽では内面の叫びに近い響きになる。
生まれた背景
1908年頃のウィーンで、ロマン派後期の半音階が限界まで進んだ先に現れた。シェーンベルク、ベルク、ウェーベルンは、調性の支えを外して、心理の不安や断片的な感情を直接音にした。のちの十二音技法へつながる前段階でもある。
聴きどころ
きれいな解決を待たず、音の緊張がどこで強まるかを聴く。短いフレーズ、急な強弱、鋭い音域の跳躍が多い。落ち着かないこと自体が表現なので、不安定さを避けずに聴きたい。
発展
シェーンベルク「3つのピアノ曲」 作品11(1909)が最初期、ベルクとウェーベルンが追随した。1923年シェーンベルクは「12音技法」を体系化し、これ以降の作品は12音技法に基づく「組織された無調」へ移行する。それ以前の自由無調期の傑作には「期待」「幸福な手」「月に憑かれたピエロ」が含まれる。
出来事
- 1908: シェーンベルク「弦楽四重奏曲第2番」終楽章
- 1909: シェーンベルク「3つのピアノ曲」 作品11
- 1911: シェーンベルク「和声法」出版
- 1923: シェーンベルクが12音技法を最初に公表
派生・影響
12音技法、トータル・セリアリズム、戦後前衛音楽全般に道を開いた。「無調」という用語は今日では「調的でない音楽」全般を指す広義語としても用いられる。
音楽的特徴
楽器管弦楽、室内楽、ピアノ
リズム調性中心の不在、半音階の解放
代表アーティスト
- アルノルト・シェーンベルク
- アルバン・ベルク
- アントン・ウェーベルン
代表曲
- Five Pieces for Orchestra — アルノルト・シェーンベルク (1909)
- 3つのピアノ曲 作品11 — アルノルト・シェーンベルク (1909)
- Three Pieces for Orchestra — アントン・ウェーベルン (1913)
- 5つの管弦楽曲 作品16 — アルノルト・シェーンベルク (1909)
- 期待 作品17 — アルノルト・シェーンベルク (1909)
日本との関係
日本では現代音楽史の重要項目として学ばれ、映画や舞台の不安表現とも結びつけて理解される。演奏会で頻繁に聴く音楽ではないが、20世紀音楽を知る入口として避けられない。
初めて聴くなら
ピアノで凝縮して聴くなら「3つのピアノ曲 作品11 — アルノルト・シェーンベルク (1909)」。管弦楽の色彩なら「5つの管弦楽曲 作品16 — アルノルト・シェーンベルク (1909)」。劇的な独白は「期待 作品17 — アルノルト・シェーンベルク (1909)」がよい。
豆知識
無調は、調子外れという意味ではない。調の中心を意図的に置かないことで、従来の安定と不安定の感覚を作り替える音楽である。後の十二音技法より自由な時期の作品では、感情の飛躍や息苦しさが形式より先に出るため、表現主義と重なって聴こえる。 不協和音が続くため難解に思われやすいが、登場人物の混乱や都市の不安を描くには、むしろ調性より自然に響く場面がある。 声楽作品では特に、言葉が安定した旋律へ収まらないことで、人物の恐れや欲望がそのまま音程の不安として現れる。
