古典

弦楽四重奏曲

String Quartet

オーストリア / 中央ヨーロッパ · 1755年〜

2つのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための室内楽形式。古典派以降の作曲家にとって最高の知的様式とみなされる。

どんな音か

第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという4本の弦楽器だけで演奏される室内楽の形式。ピアノもフルートも打楽器もない。音の厚みを4人だけで作るため、各奏者が旋律・内声・低音を絶えず入れ替わりながら担う。音色は柔らかく、ホールより小さな部屋で聴くことを前提に書かれた曲が多い。テンポは曲によって幅広いが、古典派の作品では4楽章構成が標準で、速い楽章・遅い楽章・舞曲的な楽章・終楽章と、聴き手を案内するような流れがある。ベートーヴェンの後期作品になると不協和音や突然の沈黙が増え、4人の音の間の「間」が音楽の一部になる。弦のボウイング(弓使い)の細かな変化で音の輝きや翳りが変わるため、同じ音符でも演奏する団体によって印象が大きく異なる。

生まれた背景

形式の成立に最も貢献したのはハイドンで、1750年代から60年代にかけて多数の弦楽四重奏曲を書きながら、4声部が対等に会話する書法を磨いていった。当時ウィーン周辺の貴族の館では、食後の娯楽として小編成の演奏会が開かれており、弦楽四重奏はその場にちょうどよい規模だった。モーツァルトはハイドンの様式を学んで「ハイドン四重奏」と呼ばれる6曲を書き、ベートーヴェンはその延長上でジャンルを哲学的な深みへと押し広げた。19世紀以降、シューベルトの「死と乙女」やブラームスの3曲、ドヴォルザークの「アメリカ合衆国」が加わり、20世紀にはバルトークが民俗音楽のリズムと不協和音をぶつけた6つの弦楽四重奏曲を書いた。ジャンルとしての寿命は250年を超え、いまも新作が書かれ続けている。

聴きどころ

4人の会話に耳を当てるつもりで聴くとよい。第1ヴァイオリンが旋律を歌っているとき、チェロは低音でリズムを刻み、ヴィオラと第2ヴァイオリンが内声で和声を補っている。やがてチェロが主題を取り、ヴァイオリンが伴奏に回る。この「受け渡し」が何度も起きる。ベートーヴェンの作品131(嬰ハ短調)では、全7楽章が切れ目なく続くため、転調と沈黙の箇所に注目すると構造が見えやすい。ハイドンの「鳥」(第33番)では、第1ヴァイオリンが鳥のさえずりを模した装飾音を多用するので、その動きを追うだけで楽しめる。

発展

ハイドン作品33(1781)で「会話」のように対等な4声書法が完成、モーツァルトの「ハイドン四重奏曲」(K.387ほか)、ベートーヴェン後期(作品127〜135、特に大フーガ作品133)が哲学的領域に到達した。ロマン派ではシューベルト「死と乙女」、メンデルスゾーン、ブラームス、ドヴォルザーク、20世紀ではバルトーク6曲、ショスタコーヴィチ15曲、リゲティ、カーター、シュニトケが代表的サイクルを残した。

出来事

  • 1781: ハイドン「弦楽四重奏曲集」作品33
  • 1825: ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第13番」(大フーガ含む)
  • 1939: バルトーク「弦楽四重奏曲第6番」
  • 1974: ショスタコーヴィチ「弦楽四重奏曲第15番」

派生・影響

弦楽五重奏、弦楽合奏曲、ピアノ五重奏など室内楽全般、20世紀の現代音楽サイクル(フェルドマン、ラッヘンマン)まで広く影響を残す。

音楽的特徴

楽器弦楽四重奏(2 vn, va, vc)

リズムソナタ形式、4楽章、対等な4声

代表アーティスト

  • ヨーゼフ・ハイドンオーストリア · 1755年〜1809
  • ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトオーストリア · 1762年〜1791
  • ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンドイツ · 1792年〜1827
  • フランツ・シューベルトオーストリア · 1810年〜1828
  • ヨハネス・ブラームスドイツ · 1855年〜1897
  • アントニン・ドヴォルザークチェコ · 1865年〜1904
  • ベラ・バルトークハンガリー · 1900年〜1945
  • ジェルジ・リゲティハンガリー/オーストリア · 1950年〜2006
  • ジョージ・ロックバーグアメリカ合衆国 · 1955年〜2005
  • ベン・ジョンストンアメリカ合衆国 · 1955年〜2019

代表曲

  • 弦楽四重奏曲 第33番「鳥」 作品33-3ヨーゼフ・ハイドン (1781)
  • 弦楽四重奏曲第19番 ハ長調 K. 465「不協和音」ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (1785)
  • 弦楽四重奏曲第14番 ニ短調「死と乙女」 D 810フランツ・シューベルト (1824)
  • 弦楽四重奏曲第14番 嬰ハ短調 作品131ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン (1826)
  • 弦楽四重奏曲第6番ベラ・バルトーク (1939)

日本との関係

日本では明治以降に西洋音楽とともに弦楽四重奏という形式が導入された。戦後には東京クァルテット(1969年結成)がニューヨークを拠点に国際的なキャリアを築き、世界の主要なホールで演奏した。日本人作曲家では武満徹が弦楽四重奏曲「ア・ウェイ・ア・ローン」(1981年)を書いており、西洋の形式に日本的な間(ま)の感覚を持ち込んだ作品として知られる。NHK交響楽団の首席奏者たちによるアンサンブルや、各地の音楽大学の学生たちが日常的にこの形式を演奏しており、クラシック音楽の学習における標準的な室内楽ジャンルとして定着している。

初めて聴くなら

ハイドンの弦楽四重奏曲第33番「鳥」から入るのがわかりやすい。第1楽章の冒頭から明るく軽やかで、4つの楽器がどう絡み合うかが聴き取りやすい。シューベルトの「死と乙女」は夜に一人で聴くのに向いていて、第2楽章の変奏曲では低音から高音へ主題がゆっくり受け渡されていく様子が静かに迫ってくる。どちらもまず20分程度の曲なので、通して聴いてみるといい。

豆知識

弦楽四重奏は楽器を4本しか使わないにもかかわらず、作曲家にとって最も書くのが難しい形式のひとつとされてきた。管弦楽なら他のパートで音を補えるが、四重奏では4声部のどこかが空洞になれば即座に聴こえてしまう。ブラームスは弦楽四重奏曲を生涯2曲しか出版しなかったが、それ以前に習作を20曲以上書いて全部捨てたと伝わる。また、ベートーヴェンの作品131は全7楽章が40分弱ノンストップで続くため、演奏者は楽章の間で弓を張り直すことさえできない。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1660年代1730年代1750年代弦楽四重奏曲弦楽四重奏曲トリオ・ソナタトリオ・ソナタ交響曲交響曲凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
弦楽四重奏曲を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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